◇204◇余計な事は言わないで

 「疲労でしょう。ゆっくり休めば、熱も下がるでしょう。お大事に」


 僕は、マドラーユさんが泊まった部屋の隣で診察を受けた。

 ふわっふわの布団。昨日僕が泊まった部屋とは大違いだ。


 「まさか、彼らを牢に入れるなんてね。五階は男性用だと思ったわ」


 マドラーユさんが不服そうにメリュドガさんに言った。


 「二人は、ルイユの手助けをした者だ。君の疑いは晴れたが、二人は当事者だ。お客じゃない」


 アベガルさんが、答えた。

 そうだよね。でもアベガルさんが追ってこなければ、キュイだって来なかったのに。


 「そういうわけだ。マドラーユさんは、お帰りになって結構です」


 「あら帰りませんよ。だいたい、助手のイラーノくんが一緒に行かないと意味がありませんから。それに疑われて巻き込まれたのだから、私も当事者よ!」


 「本当に困った人だ」


 メリュドガさんが、ため息交じりにそう言った。


 「俺に何を聞きたいの? もうあらかた話したけど」


 「あぁ。アベガルから一通り聞いた。馬車での話もな。だがなぁ、君はギルドマスターの息子らしいじゃないか。それにしては、随分とそのルイユという女に加担していたな。何か取り引きでもしたんじゃないか?」


 「取り引き?」


 「本当の父親と会う事と引き換えに」


 「一つ質問いいですか? 何故そこまでして疑うんですか? 俺がエルフと人間のハーフだから?」


 「彼女は、君と同じエルフとハーフなのだろう? 彼女に何を吹き込まれた?」


 そういう風に思っていたんだ。

 最初から僕じゃなく、イラーノの方を疑っていた。協力するフリをしていると思っているんだ。


 「なんでそうなるんだ。僕達は巻き込まれたんだ! 巻き込んだのはそっちだよ。アベガルさんが追いかけて来たからモンスターだって現れた! 呼んだのは僕達じゃない! アベガルさんがした行為だ! はぁはぁ」


 「クテュール……」


 アベガルさんが僕達を捕まえたからルイユがあういう手段を取った。


 「そう言えば君は、ルイユと恋仲とか。もしイラーノが本当に我々に協力していたとして、君にはその意思はなさそうだな。殺されかけたというのに……」


 「………」


 メリュドガさんが、横になっている僕を鋭い視線で見下ろす。


 「何もわかっていない様だから言おう。あのモンスターは、結界を破らず街に侵入した。それがもしマジックアイテムの効果ならば、ルイユを捕まえなければ大変な事になる。わかるか? モンスターを従えずども街や村を襲わせる事が簡単に出来るんだ」


 そう思っていたのか!

 結界で阻めるなら結界を強化すればいい。けどそうでなければ、違う対策をするしかない。

 もしルイユが、マジックアイテムを使ってキュイを街に入れていたら大変だから、確かめたいって事だったんだ。

 違うけど違うと証明が出来ない。


 「死んだと見せかけて死んではいなかった。彼女は、エルフとハーフで魔法も得意なのだろう。エルフは、飛べるようだからな」


 アベガルさんが、核心をついてきた。

 ルイユは、最初から飛べたのだろうと含ませて言ってきた。


 「彼女は、エルフとのハーフ! そうだったわ。そう言っていたわね! 私、てっきりモンスターかと」


 マドラーユさんの言葉に、僕達はギョッとする。

 変なヒントを与えないで!


 「彼女がモンスターの時点で、街には入れないだろう。しかも、モンスターが錬金術を出来ると? 君も見ただろう。あの外套を」


 「あ! それもそうね。彼女が錬金術を使えるからモンスターを中に入れられたか。なるほどねぇ」


 モンスターじゃないと思ってくれたようだけど、錬金術でキュイを中に入れた事になっちゃったよ。


 「ボスだから結界が効かなかったとかではないの?」


 イラーノが聞いた。


 「普通はない。破壊して入る。入れるとしたらテイマーの眷属だ」


 やっぱりそうなんだ。大変な事になったよ。

 これルイユが捕まらない限り、永遠に追われる。


 「ねえ、錬金術も使えるけど彼女テイマーなんじゃない? マジックアイテムを作って枷を掛けていた。でも失敗してぱくり。何とか逃げ切った。だとしたらあのリスは、モンスターね」


 「………」


 なんでマドラーユさんは、余計な事ばかり言うんだ!

 どうしよう。これで納得されたら僕がテイマーだと知れれば、僕は牢獄行きだ。

 ルイユと結託し、街を襲った事になる。


 「いや、それはないだろう。最初からあのモンスターを眷属していた事になる。時間的に探し出し眷属にするのには、時間がなさすぎる。それに、あのモンスターを眷属にしたのならば別に、墓に眠るボスの魂の復活などしなくてもいいだろう」


 テイマーの件は無理となったみたいで僕は、アベガルさんの言葉にホッと胸を撫で下ろした。

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