◇200◇勝利者マドラーユ

 「そっか。ばれちゃったんだ。でもあれは小芝居じゃないよ。俺達も知らされていなかった。マントを作れって言われて、マントもどきを作ったんだ。ただ、あの大きなモンスターは、俺達に害をなさないと思ったから前に出た。まあクテュールは、ルイユの心配をしてだけどね」


 「なるほどねぇ。へんてこなマントだったものね。普通着けるとしたら肩でしょう。せめて首に通すと思うけど、脇だったものね。モンスターだったからそこら辺がわからなかったみたいね」


 へんてこ!? 確かに見た目はあれだけど……。


 「あら、ごめんね。ルイユの為に一生懸命、作ったんだったわね」


 僕がしょげているからか、マドラーユさんはそう言った。


 「でもね、人間は普通浮けないのよ」


 真面目な顔でマドラーユさんは言った。

 たぶん、ルイユが自ら浮けると聞いて、モンスターだと気づいたんだ。


 「………」


 僕達は、何も言えない。彼女の言う通りだから。


 ガチャ。

 シーンと静まり返った所に、アベガルさんが馬車のドアを開けた。


 「救援隊が来た。我々は、馬車に馬をくくり付け次第出発する。もう少し待っていてくれ」


 「わかったわ」


 マドラーユさんが答えると、僕達をチラッと見てからアベガルさんは、ドアを閉めた。


 「あの、お願いがあります。ルイユがモンスターかも知れないという事は、アベガルさんに言わないで下さい。お願いします!」


 イラーノがそう言って、マドラーユさんに頭を下げた。


 「お友達思いなのね」


 「違います。お父さん……ロドリゴさんの立場が危うくなるからです。僕はエルフとのハーフなんです。それだけでも微妙なんです」


 そうだった。お触れが出ているとアベガルさんが言っていた。ロドリゴさんもそれは知っていたはずだ。だから街を出る様に言ったんだ。

 そして、アベガルさんは、それを確かめる為にロドリゴさんに、イラーノの父親の事を聞いたんだ。

 今回、エルフとモンスターが結託して事を起こし、それに僕らが関係しているとなれば、ロドリゴさんだってただではすまない。

 せっかくお咎めなしで無事終えたのに!


 「僕からもお願いします。せめて、イラーノは関係なかった事にして下さい!」


 「関係がなかった事にはならないでしょう? まあそこまで言うのならモンスターだという事は、黙っていてあげる。その代わり、ルイユを捕まえる協力はするのよ」


 「はい」


 「え……」


 マドラーユさんが言った言葉の反応が、僕とイラーノで分かれた。


 「ごめん、クテュール……」


 イラーノがそう言う。

 僕は何も答えられない。本音なのか、それとも芝居なのか、僕にはわからなかった。

 ガチャ。

 また静まり返った所にドアが開く。


 「待たせたな。準備が出来た」


 そう言って、アベガルさんは、馬車に乗り込んで来た。

 マドラーユさんの隣に座るかと思いきや、アベガルさんはマドラーユさんに頭を下げた。


 「ルイユだと疑って悪かった。申し訳ない」


 「あら? あれ本気だったの? まだまだね。そうね。あの万能薬を買い取りで許してあげる」


 「買い取りだと!」


 本気で驚いた様にアベガルさんが声を上げた。たぶん、相当高いのかもしれない。


 「わかってるでしょう? 凄く高価な物なの。彼らじゃ払えないと思うけど? あなたならそれぐらいポケットマネーで買えるでしょう?」


 「………」


 アベガルさんは、渋い顔をする。


 「毒に侵されたらヒールが効かないんだから保険で持っていたらって事よ」


 マドラーユさんにそう言われ、アベガルさんは大きなため息を漏らす。

 たぶん嫌みだ。


 「ねえ、何の話?」


 ボソッとイラーノが僕に聞く。


 「イラーノは、毒に侵されていたんだ。それで、アベガルさんのヒールじゃ回復出来なかったから、マドラーユさんが譲ってくれた万能薬で毒を除去したんだ」


 イラーノは驚いていた。

 万能薬を使った事に驚いたのではなく、たぶん毒を使われた事に驚いたと思う。だって、青ざめた顔つきになってるから。


 「大丈夫よ。あなたに請求する事はないから。元々は彼が、私の仕事を奪ったから故郷に帰る事になったのだし」


 「わ、わかりました! 本当に申し訳ありませんでした。お金は後日お支払いします」


 「毎度あり~」


 にんまりとするマドラーユさんと対照的に、はぁっとアベガルさんは元気なくため息をつくのだった。

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