◇196◇恐怖の峠

 馬車が静かに出発した。


 「お昼ぐらいが峠よ。峠を越えて近くの村で一泊して、次の日の夕方にはウィールナチに着く予定よ」


 次は、ベットで寝れそうだ。

 僕達は、わかったと頷く。


 《アベガルは、もう一人の騎士団の仲間と馬で、我々の後を追っている様です》


 僕は、軽く頷いた。

 二人だけで追って来ているみたい。しかも、アベガルさん本人が。


 しかし暇だ。

 楽しく雑談でもして過ごしたいけど、乗せられて何か言っちゃいそうだ。

 寝てるかな……。

 お昼を食べる時には、起こしてくれるだろうし。

 僕は、目を瞑り、あっという間に眠りに落ちた。



 ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆



 ガタン!


 「きゃ!」


 「うわぁ!」


 僕は、席から放りだされイラーノの足元へ転がった!

 急に馬車が停止したみたいだ。


 「痛……。え? 何?」


 《主様、大丈夫ですか?》


 僕は、ルイユをギュッと抱きしめたまま転がっていた。


 「クテュール大丈夫?」


 イラーノも聞いて来る。僕は頷き、上半身を起こした。

 何が起きたんだろう?


 「ここ、どこら辺?」


 「峠だよ」


 峠か……まさか、賊とか言わないよね?


 「うそ!」


 外を見たマドラーユさんが叫ぶと同時に、馬車のドアが開いた!

 驚いて見るも御者がドアを開けたようだ。賊じゃなくてホッとする。


 「逃げて下さい! 賊です! 馬が殺されて……」


 「え!」


 僕達は、驚いて馬車から降りた。

 馬は、矢で射止められていた!


 「どうして!? ちゃんと冒険者ギルドの馬車にしたのに!」


 「お間抜けだな。直行便なんて、冒険者は手配しないだろう?」


 賊はもう、目の前に居てそう言ってじわりじわりと近づいて来る。

 よくわからないけど、余程じゃないと冒険者はそういう便を使わないみたい。偽装してもそれじゃダメだろう!


 「しかも、護衛付きじゃなぁ。ばればれだ!」


 「護衛ですって!」


 賊の言葉にマドラーユさんが驚く。

 アベガルさん達の事だ!

 いやマドラーユさんが言った通り、アベガルさんが護衛になる!


 《主様、ここは私が……》


 「だめ! マドラーユさん、こっち!」


 ルイユを離すと、マドラーユさんの手を取り道を下る。

 ここは一旦、アベガルさんに助けを求めよう。

 そう思ったけど、遠くに馬から降りて争う二人が見えた!

 振り返ると、賊は一人や二人じゃないようだ。

 五人いる。


 「まじかよ……」


 僕の後を走って追っていたイラーノが呟く。


 「とにかく二人は、あの者達のところに行け!」


 コーリゼさんが、剣を抜いて叫ぶ。

 僕は、頷いた。

 あれ二人? って、もしかして僕も戦う事になっている!?

 自己紹介をした。マドラーユさんは戦えない。イラーノもヒーラーだ。普通は、前にでない。

 僕は、剣士と名乗った。


 「あのごめんなさい。お飾り剣士なんです……」


 「うりゃ!」


 僕達が話していると、賊が襲い掛かって来た!


 「くそ! 人数が多すぎる!」


 結局、コーリゼさんが一人で立ち回るが、一人では無理な数だ!


 「コーリゼさん! 一人じゃ無理です。アベガルさん達と合流……うわぁ!」


 賊がいつの間にか近くに来ていて、剣を振り下ろして来た!

 それをルイユが、ひっかく! ――って、本当は強烈な蹴りを入れた様で、後ろに倒れた!


 《やはりこれを着けていると、威力が出ませんね》


 だからって、ここで外さないでよ!


 「ありがとう。ルー!」


 「アイスイン!」


 イラーノが武器無効の魔法を使うと、一人の賊の剣は凍り付く。

 賊もコーリゼさんもマドラーユさんも驚いている。


 「逃げるよ」


 イラーノがそう言って森へ走り出す。

 アベガルさんの方向に、賊が回り込んだ為にそっちに行けなくなった。


 《主様!》


 急にルイユに、軽く蹴られ? 倒れ込んだ。僕の上を矢が通過していった!

 え? そうだ。馬は矢でやられていたんだった!

 弓を使う賊もどこかにいる。


 「ありがとう」


 気づけば、イラーノともマドラーユさんとも散り散りだ。

 幸いなのは、マドラーユさんとコーリゼさんが一緒に逃げている事。


 「アイスイン!」


 あの魔法、地味に効果があるみたいだけど、体術も出来るなら捕まったら逃げられない!


 「うわぁ!」


 イラーノが盛大にこけた!


 「あの魔法使いは、女だ! 殺さず捕まえろ!」


 「え!? 魔法使いって俺の事?」


 イラーノは、外套のフードが外れていた。

 隠していた訳じゃないと思うけど、いつもの癖で被っていたのがとれた。

 帽子を被っていてもやはり女性に見えるらしい。


 「捕まえた!」


 「あ……」


 いつの間にか近づいた賊に、イラーノの腕が掴まれた!


 「イラーノ! ルイユお願い!」


 『しかし……』


 「お願いだからイラーノを助けて!」


 『では、あそこに隠れていて下さい!』


 僕は、言われた場所に駆け出した。

 ルイユは、イラーノに向かう。

 このままだと、逃げきれないかもしれない……。

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