◆197◆裏切り

 「離せよ!」


 「大人しくしろ!」


 イラーノが抵抗するも賊の方が力があり逃げられない。幸いなのは、女だと思っているから今の所殺されない事だ。

 凄いスピードで、ルイユはイラーノに近づく。

 ドカ!


 「ぐわぁ」


 「うわぁ」


 ルイユに思いっきり蹴られ賊は吹っ飛ぶ。掴まれていたイラーノも引っ張られるもルイユが掴んだのか一緒には吹っ飛ばなかった。

 ホッと一安心だ。


 「腕、いた……。ルイユありがとう」


 痛めた腕にヒールしようとイラーノが、自分の腕に手を持って行った時だった。イラーノが一瞬光に包まれる。それと同時に、僕の背中に激痛が走った!

 僕は、前にうつ伏せに倒れる――。


 「え? 何? なんでヒール……」


 『主様!』


 二人の声が聞こえた。目だけで何とか僕の後ろを見ると、賊の男が立っていた。

 その賊が持つ剣は、血が滴っている。


 「さて、何が入ってるかな?」


 横に置いてあったリュックに賊が手を伸ばす。

 僕達は、外套を羽織ったまま馬車に乗っていた為、リュックは手に持ち走っていた。


 「ぐわぁ!」


 リュックを手にする前に、賊は吹っ飛んだ!


 『主様! しっかりして下さい』


 「はぁはぁ。え? クテュール……」


 イラーノも走って、僕の元へ来た。


 「あ……ヒール!」


 僕の横に来てイラーノがヒールを掛けてくれた――。


 「……なんで? ヒール! なんで、効かないの!」


 『魔法無効でキャンセルされているんです!』


 「どいて! ヒール!」


 どうやらルイユは、人の姿になったみたいだ。

 ここにアベガルさんが現れたらまずいな。って、そんなところじゃないか……。

 どうやらルイユのヒールも効かないみたいだ。

 何か、頭がもうろうとしてきた。


 「私のでもダメですか!」


 「そんな、どうするんだ!」


 「主様! 気をしっかり持って下さい。ミサンガを外して! それは、着けた者か着けている本人にしか外せません! 聞こえてますか?」


 ルイユの焦った声が聞こえる。

 僕は、何とか手を動かそうとするも背中に激痛が走った。


 「う……はぁはぁ」


 「主様! お願いします。ミサンガを外して! あなたが作る物は性能がいいので、私でも壊せないのです」


 壊せない? ただの布なのに……。


 「クテュール。頑張って! それ外したらヒールするから!」


 イラーノも叫んでいる。

 どっちかわからないけど、僕の手を掴んでミサンガの所に持って行ってくれた。でも、手に力を入れようとすると背中に激痛が走って、ミサンガを掴むのさえ苦痛だ。

 まさか自分が作ったマジックアイテムで追い詰められて、こんな目に遭うとは思わなかった。

 ダメだ……意識が遠のいて行く――。


 「お願いです! 気を失わないで!」


 ルイユの悲痛な声が遠のいて行った――。



 ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆



 背中が痛いなんで? あぁそうだ。僕、背中を斬られたんだった。あれ? 僕、生きてるの?


 「よかった目を覚ましたんだね? 起きて早々で悪いけど、ミサンガを外せる?」


 イラーノが、僕を覗き込み言った。

 手は、気を失う前と同じ状態だ。ミサンガを掴むと、背中に激痛が走る。でも、何とか耐えられる。麻痺しているのかもしれない。

 そして、やっとミサンガを外せた。


 「はぁはぁ……ル、ルイユは?」


 「ちょっと待って。先にヒールを……」


 そう言ったイラーノは、ふと後ろを振り向いた。


 「うわぁ! ちょ、ルイユ!」


 驚く事にルイユが、イラーノを襲った!

 振り向かなければ、ルイユに背中を刺されていただろう。どうなってるの?

 左腕を斬られたイラーノは、右手で押さえている。押さえているけど、血が流れているから傷は深いかもしれない。


 「待って! ルイユ! もうミサンガ取れ……うわぁ」


 ルイユが問答無用とイラーノを刺した大きめのナイフを振り上げた!


 「ルイユ! 止めて!」


 僕は叫んだ!

 けど、ナイフは振り下ろされる!

 カキン!


 「どうなっている!? なぜルイユがお前達を襲う!」


 ルイユが振り下ろしたナイフを受け止めたのは、アベガルさんだ。


 「おや、他の者を倒しましたか」


 ドサ!

 イラーノが倒れた!

 僕の横に倒れたイラーノは、顔色が真っ青だ。


 「ルイユ? なんで……」


 そう発した僕の声は、震えていた。

 僕を優先的に助けるからその時は、イラーノ見捨てるとは言っていた。けど今は違う!

 僕にヒールをしようとしていた。僕を助けようとしていたのに、イラーノに襲い掛かった。僕も殺そうとしたの?


 「ヒール! くそ! 毒なのか!」


 毒? 本気で殺す気だったの?


 「待て! くそ……」


 背を向けてこの場を後にするルイユを追うとアベガルさんは立ち上がるも、僕達を見て止めた。

 ルイユは、森の中へ消えて行ったのだった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る