◇194◇彼女の思惑

 「お待たせ。話は終わった?」


 部屋からマドラーユさんが出て来た。彼女は、腰に剣までさして冒険者の出で立ちだ。


 「まるで冒険者みたい」


 「商人だとわかると、盗賊に襲われるからね」


 イラーノが呟くと、マドラーユさんはそう答えた。


 「さあ馬車を手配しに行くわよ」


 「手配?」


 僕が聞くとマドラーユさんは頷く。


 「馬車の中でまったりしたいでしょう? 他の者を乗せない手段を取るのよ」


 「それって自家用って事ですか?」


 「ちょっと違うわね」


 ロドリゴさんの質問に返って来た答えに、僕達は首を傾げる。

 一体どうする気なのだろう。


 「じゃ、向こう側に行くわよ」


 向こう側とは、住宅地区の事だ。

 僕達は、建物を出た。


 「あら別に、あなたはもうついて来なくても大丈夫よ」


 「いえ、ついて行きます。商人ギルドに行くのでしょう? ご挨拶をして帰ります」


 「本当に過保護ねぇ」


 過保護と言う言葉にロドリゴさんは、笑顔だが眉をピクッとさせる。

 そっか商人ギルドに行くのか。マドラーユさんは、商人って言っていたもんね。

 住宅地区に入ると真っ直ぐと商人ギルドに向かう。


 「いらっしゃい。おぉ、マドラーユか。おや? あの子達と知り合いなのか?」


 僕達も一緒に入って来たのを見たタリューグさんは聞いた。


 「えぇ。これから三人でウィールナチに行くの。手配をお願い」


 「三人ねぇ。で、あちらの方は?」


 マドラーユさんの説明を聞いたタリューグさんは、ロドリゴさんを見て聞く。


 「はじめまして。二人の保護者・・・のロドリゴと申します」


 「ほ、保護者?」


 ロドリゴさんの挨拶にタリューグさんは驚く。

 普通、冒険者に保護者はついて来ないよね……。


 「本当に保護者よ。イラーノの父親。ノラノラシチ街の冒険者ギルドマスターらしいわ」


 「らしいわって……。まさかギルドマスターの息子だったとは。タリューグと申します。お見知りおき下さい」


 タリューグさんは、ロドリゴさんに右手を出して来た。お握手を求められロドリゴさんも右手を出す。二人は、握手を交わす。


 「おや? 今日は、うさぎではなくて、リスなのかい?」


 「あ、うん……」


 ロドリゴさんが、うさぎだと? と呟いたのが聞こえた。


 「マドラーユちょっと……」


 タリューグさんは、マドラーユさんと奥へと行く。何やら話始めた。


 「今更だが、他のお友達も首に着けている物で、動物に見せているのか?」


 声は静かだが、目が怖い。

 タリューグさんの一言でばれた。

 この前、街に帰った時リリンは、リュックの中だった。朝走る時に森へとこっそり返し、ロドリゴさん達には見つかっていない。


 「大丈夫。今回は、連れて行かない事になっているから……」


 「何が大丈夫だ!」


 ロドリゴさんは、ため息をしつつそう言って疲れ切った顔つきになった。


 「お父さん、さっきの何?」


 「何とは?」


 「保護者って! 恥かしいからもうやめてよね!」


 そんなやり取りを聞きながら僕は、マドラーユさん達の会話を盗み見る。


 (また変な事に首を突っ込んでいるんじゃないですか? 彼らは危険かもしれない)


 (大丈夫よ。エルフと結託して何かをしているようだけどね。探ってみるわ)


 (あなたは、冒険者ではなく商人ですよ?)


 (どちらにしても騎士団に目をつけられて、ここには居られないからね。それに一緒に居れば、絶対にルイユは姿を現すわ)


 (ルイユですか……。あなたに何かあったらニュドルラーさんに申し訳が立たない。無茶をしないで下さい)


 (大丈夫よ。あの子達は悪い子じゃないわ。どうやらルイユに二人は踊らされているみたいなのよねぇ)


 え!? マドラーユさんってそう思っていたの?

 アベガルさんとはちょっと違うみたいだけど、ルイユが悪者ってところは一緒か。


 「……おい、聞いているのか?」


 「え? あ……」


 ついマドラーユさん達の方に意識がいっていてロドリゴさんの事を忘れていた。凄い目で睨まれた!


 「ご、ごめんなさい。聞いていなかったです」


 「はぁ……。いいか。馬車の中で気を抜くなよ。彼女も何を企んでいるかわからないからな。彼女もまた、権力者だろう」


 「権力者?」


 僕が聞くと、ロドリゴさんが頷く。


 「大きな街で商売ができる様にしてくれる者と親しい仲にある。たぶん、イラーノの様に親か親族が私の様な地位にあるのだろう。彼女はまだ若い。人脈を作ってとは考えづらい」


 なるほど。それは言えるかも。

 僕は、ちらっとマドラーユさんに振り向くと、彼女はこっちを見ていた!

 向こうがニッコリと微笑むので、僕も引きつった笑顔で返す。

 マドラーユさんも、ルイユの正体を暴こうとしている。ぼろを出さないようにしないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る