◆193◆知れてはいけない

 「さてと、準備しますか」


 話はまとまったと、マドラーユさんは立ち上がる。


 「ちょっと待ってください! 二人を護衛にって本気ですか?」


 「あら、本気よ」


 「さっきも言いましたが、二人は何もできませんよ? 体力もないですし……。私の方で、護衛の者は手配しますので」


 「全く。過保護もいいところね!」


 「何を言っているのですか! 私は、あなたの心配をしているんです! 襲われてもあなたを護衛する事はできませんと、言っているんですよ!」


 ロドリゴさんがそう言うと、ニッコリ微笑んでマドラーユさんは頷いた。それは、わかっているって事だろうけど。


 「二人を連れて行けば、護衛なんて必要ないわ。見張り役の騎士団だって、腐っても冒険者でしょう? 二人はともかく、私は助けるわよ。姿が見えなくても見張っているのは、こちらは知っている事なのですから」


 「あなたねぇ……」


 あまりの事にロドリゴさんも返す言葉がないようだ。

 凄い人だった。何と言うか、計算高い?

 まあ、モンスターに襲われる事はないから大丈夫だけど。

 なんか釈然としないなぁ。


 「俺達、凄い言われようだね……」


 「でも、反論できない」


 僕達も二人揃って、ため息をついた。


 「納得した? 大丈夫よ。殆どが馬車で移動なんだから。護衛として来るのなら宿代や食費もこっち持ちだけど? どうする君達」


 「え? それって、マドラーユさんにデメリットしかなくない?」


 イラーノが驚いて言う。


 「私は、諦めが悪いのよ。ここで別れちゃったら来てくれる保証はないでしょう? それに手伝って欲しいのは本当だから。そして、護衛として雇うなら普通の事よ」


 「そうなんだ……」


 「わかりました。そこまで言うのなら二人を護衛にでも何にでもして下さい。私は、忠告をしましたからね!」


 《主様、ご安心下さい。何かありましたら私が対処します》


 いや、それはいいから……。

 正体をひたかくしにしているのに、そこで出て来たら今まで隠していた意味がない。

 僕は、軽くダメだと首を振る。

 ルイユが不満そうな顔つきになった。


 「大丈夫よ。心配性のパパさん」


 「な……」


 マドラーユさんに口で勝つのは難しそうだ。


 「すみませんが少しだけ、三人で話す時間を頂けませんか?」


 「別にいいわよ。このままここを使って。私、奥の部屋で着替えてくるから」


 「ありがとうございます」


 正面に見える寝室だと思う部屋へマドラーユさんは、消えて行った。


 「お前達、頼る相手を選べよ!」


 小声だけど、凄い低い声で怒られた。

 そんな事を言われても、知り合いがマドラーユさんしかいなかった。


 「クテュール、はいかいいえで答えろ。モンスターが声を発しない言葉も聞こえているんだろう?」


 「え?」


 それって、テレパシーの事?

 やっぱり何となくばれてた?


 「うー……はい」


 僕は、目を逸らして答える。


 「やっぱりな。いいか、相手はマドラーユさんだ。それが知れたら大変だ。話しかけられても答えるなよ?」


 「聞こえてたの? 凄いね」


 イラーノは、羨ましそうに言った。


 「何が凄いねだ。変な人だと思われるならいいが、怪しいと思われたら困るだろうが。あと、盗賊には気を付けろよ。向こう側に行くのに峠を越える。そこら辺によく盗賊が出る。いいか、助けてくれると言ってもギリギリまで出てこないだろう。下手すれば、殺されるぞ」


 「殺されるって言われても」


 ロドリゴさんの言葉に、イラーノは青ざめる。

 やっぱり襲って来るのは人間だ。


 『もしもの時はプープー私が対処するわプープー


 「何だって?」


 突然会話に入って来たルイユが何を言ったかロドリゴさんが聞いた。


 「もしもの時は、対処するって……」


 「ちょっと待て。何故イラーノもわかる?」


 「あ……帽子のおかげなんだ」


 「……クテュールが作ったのか? 帽子まで……。まさかと思うけど、空飛ぶマントを作ったのか?」


 マドラーユさんが言っていたマントの事だと思う。

 僕は、驚いて僕を見ているロドリゴさんに、飛べるマントではないので違うと首を横に振った。


 「違う目的で作ったものなんだ。最初から飛べるんだ。だからマントで飛んでいる様に見せる為に、身に着けていただけなんだ」


 「……羽根もないのに飛べるのか」


 これはこれで、ロドリゴさんは驚いたみたい。


 「それも錬金術みたいなもんだな。普通に縫って作っただけなのだろう? 絶対に人に知られるなよ。テイマーだと追われるより大変な事になる。材料は布、格安で高性能。それ、エルフに知られていないだろうな?」


 ロドリゴさんが、凄い怖い顔で聞いて来た。

 けど、知らないと頷く。

 それで彼らを助ける事になっているから知っているとは言えなかった。

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