◇182◇二人の体力
イラーノは、ロドリゴさんの問いに小さく頷いた。
「で? あのモンスターを呼んで何をする気だったんだ」
頷いたイラーノを見て、一応納得したのかルイユに聞いた。
「エルフ達が墓守だと信じさせる為に、ボスであるキュイに来て頂きました。エルフ達と主様を解放して頂いたのです」
「ルイユは、キュイに食べられたフリをしたんだ」
「……脅しを掛けたのか。そのボスがクテュールの眷属だと知れたら一大事だぞ」
「おや? ご存知でしたか……」
ルイユは、キュイの事を二人が知らないと思い話していたようだ。
そう言えば、大まかにテイマーの事件の事を話したけど、キュイが来た事は言っていない。
「あんなモノを呼び寄せるなんてな。お前達、何故言わないでいた」
「いやだって……」
イラーノは、困り顔だ。
「僕が言わせなかったの。とにかく、アベガルさんはまだ僕達を疑っている。今日もきっと探りを入れに来たんだと思う。僕は、予定通り明日出るよ」
「待って! 俺も行くよ」
「いや、ロドリゴさんといなよ」
「あの人が見張ってるなら一緒に行かないと変だろう! 俺って邪魔?」
「邪魔とかじゃなくて、巻き込みたくないんだ」
「何言ってるのさ。巻き込んだのはこっちだろう」
「え……」
僕は、何を言われているのかわからなくて、イラーノをジッと見つめた。
「ドドイさんからすでに巻き込んでいる。それが最初だろう? 俺も当事者だと思うんだけど?」
「いいの? あの人、何してくるかわからないよ」
「うん。わかってる」
「ありがとう」
本当は、不安だった。だからまた一緒に旅できるのは嬉しい。
「二人共。出て行くのを少し遅らせられないか?」
「え? どうして?」
「お前達、ナイフすら扱えないだろう? 少し訓練してからいけ。あと、クテュール。剣はどうした?」
「あ!」
ロドリゴさんに言われて、剣でモンスターを倒す為に使い放置してきたのを思い出した。
今まで身に着けていなかったものだったからすっかり忘れていた!
「剣は、使えなくなったので……。あと僕は、父さんに剣の素質ないって言われているから……」
「それでも訓練するのとしないとでは違うと思うぞ」
ロドリゴさんは腕を組み、訓練しないのなら出て行かせないと目で訴えて来ている。
「私も練習はした方が宜しいかと」
とルイユまで言う……。
「わかりました。やります」
「俺も頑張るか……」
僕が仕方なくやると言うと、イラーノも頷く。
こうして、今更ながら剣の訓練をする事になった。
◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆
翌朝、僕はあくびばかりしている。まだ朝食前の時間だ。
まずは、体力づくりをする為に、街の中を走る様に言われた。
「眠い。別に朝じゃなくてもいいのに……」
「これ、朝食食べたら寝ちゃいそうだね」
そう言いつつイラーノは、ドアを開けた。
「うわぁ! びっくりした」
「リゼタ……」
朝っぱらから何でドアの前にいるの?
「私も行くからね!」
あ、そう言う事。ドアの前で待っていたんだ。
「あ、今日じゃなくなったから」
「嘘よ! だったらなぜ、こんな早くに起きているのよ!」
僕が寝坊助なのは、リゼタも知っているもんね。
「本当だよ。荷物持ってないだろう? これから走るの」
「なぜ?」
「おとう……ギルドマスターが体力づくりしろって言うからさ」
イラーノが説明すると、リゼタが驚いた顔をした。
「じゃ、私も走る!」
「なんでリゼタまで。本当にまだ行かないし!」
もう好きな人を追いかけるって言ってあるのに!
これ、絶対信じてないな。
ダメと言っても来るだろうし走るだけだから放っておこう。
「イラーノ行こう」
「え! 待って、置いて行かないでよ」
建物の外で待っていたロドリゴさんは、リゼタを見て驚く。
「リゼタも走るのか?」
「走るわ!」
「待っていてやるから荷物を部屋に置いてこい」
きっとロドリゴさんもなぜリゼタが一緒か察しがついているんだろうな。
ため息をしつつそう言った。
リゼタは、待っていてよと言って荷物を持って部屋に戻り、すぐに戻って来た。
「じゃ、行くぞ」
知らなかったけど、ロドリゴさんは何も用事が無い日は、走っているらしい。
今日は、僕達に合せて走ってくれていると思う。
一時間走って僕達は、ヘロヘロだった。
「お前達、体力なさすぎだ!」
「俺、ヒーラーだからこんな事した事ないよ」
「何を言っているんだ。ヒーラーだって、外に出て仕事するなら体力は必要だ。お前達、女性のリゼタと一緒なんだぞ?」
そう言われてチラッとリゼタを見れば、座り込んでいる。僕も座りたい。
「朝食を食べたら剣の練習な」
「それ、私は見学にするわ」
リゼタは、懲りた様で参加するとは言わなかったけど、見張る気満々だ。
ロドリゴさんて、何気にスパルタかもしれない。
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