◆169◆作戦開始

 「出来た!」


 僕は、ルイユに言われて茶色の布で、小さな巾着を作っていた。お守りぐらいの大きさ。それに、小さな青っぽいつやつやした石を入れる。この森に落ちていた石だ。


 「はい。イラーノ分」


 「ありがとう。でも本当に大丈夫かな? ルイユって君の事になると周り見えてないよね」


 血を吸われた事を言っているのかもしれない。

 でもあの時は、あれしかイラーノを助ける方法はなかった。

 騎士団がヒールを使えるのなら僕は助かっていただろう。イラーノの方は難しかったかも。

 ただ騎士団が、ヒールを使えるとルイユが知っていれば別だ。ジュダーノさんが言っていた通り、力を手にいれる為にこれ幸いと血を飲んだ事になる。


 そのルイユは今、ジーン達に知らせに行った。

 後で街にこっそり戻って来る事になっているけど……ルイユが考えた作戦、失敗したら僕達も牢獄行きだ。

 牢屋しかない建物が存在し、罪人を収容しているらしい。


 「では、行ってきます」


 僕が言うと、カゲイケセさんとスフェオアさん、それにジュダーノさんは頷く。オスダルスさんとボールウィンツさん、こっそり逃げている。


 「気を付けて」


 ジュダーノさんが心配そうに言った。


 「皆さんも……」


 イラーノが言うと、また三人は頷く。

 僕達は、アベガルさん達がいるだろう森の出口に向かった。

 リュックが軽い。

 もし万が一を考え、まだぐったりしているリリンを咥えてルイユは連れて行った。

 リリン、大丈夫だろうか? ちょっと不安だ。


 「やっぱりダメです! 先へ進めません!」


 森に入ろうとしている騎士団の声が聞こえて来た。


 「あぁ、緊張する」


 イラーノが呟く。

 少しずつ明るくなり、森を出た。


 「お前達!」


 僕達を発見したアベガルさんが叫ぶ。

 逃げたはずの僕達が戻って来て、驚いた様だ。


 「えっと……アベガルさんの言う通りでした」


 そう言って僕は俯いた。


 「ルイユは? 森の中か?」


 「ルイユはいません」


 アベガルさんの質問にイラーノが答える。


 「それは本当か? では彼女はどこに行った?」


 「わかりません。俺達も騙されていたんです……。ジュダーノさんに聞いてわかりました」


 「あのエルフ達にか?」


 イラーノは頷く。

 僕は、台詞がほとんどない。演技が下手だから話すのは、イラーノになった。

 だからずっと俯いている事になっている。


 「何を聞いた?」


 「……それは言えません」


 「言えないだと! では、何と騙されてここに来たというのだ!」


 「俺の父親がいると聞かされてです。俺、つい最近、エルフとのハーフだとわかったんです。いえ、そう聞かされたんです。ルイユに……」


 「姉だと言って近づいて来たと言うのか?」


 イラーノは頷く。


 「俺と似ているし、信じちゃったんです」


 「で、クテュールはそれについて来たと?」


 またもやイラーノは、頷く。


 「彼の父親がドドイさんなんです」


 「なんだって!」


 驚いてアベガルさんは、僕に振り向いた。


 「本当か?」


 アベガルさんの問いに、本当だと僕は小さく頷く。


 「で、結婚の話は?」


 それ聞くんだ……。

 僕は、首を横に振った。


 「えっと……僕は、ルイユに好きだと言われて舞い上がっちゃって……」


 もし聞かれたらそう答えろって言われたけど……。納得するかなぁ?


 「彼女は、本当はドドイさんを連れて行きたかったんだと思います。でも亡くなっていた。だからドドイさんの息子であるクテュールを連れて来たみたいです」


 「なぜ連れて来る必要が?」


 「森に入る為です。でも……」


 「でも?」


 「何でもないです」


 「……そうか。他の者達はまだ森の中か?」


 「オスダルスさんとボールウィンツさんは、ルイユを探しに……」


 「なぜ彼女を追いかけている?」


 「さあ……」


 「………」


 アベガルさんは、ジッとイラーノを見つめている。

 本当の事を言っているか探っているんだろう。


 「詳しくは戻ってから聞こう」


 そう言うと、ポンとアベガルさんは僕の肩を叩いた。振り向くと、頷かれた。

 もしかして、信じちゃたの?

 後ろに立つイラーノをふと振り向けば、にやにやとしている。


 「二人共仲良さげだったもんね」


 「仲よさげって……イラーノ楽しんでない?」


 「ないない」


 と、手を振って否定してるけど怪しい。

 まあ僕はともかく、イラーノはちゃんと疑いを晴らさないと牢獄行きかもしれないからね。エルフの仲間だと思われているから。


 「ほら乗れ」


 僕達はまた、空飛ぶ馬に乗せられた。

 しかも今回も一直線に飛んで街へ戻るようで、めちゃくちゃ怖い!

 これなら絶対ルイユと飛ぶ方がいい!

 僕達は、数時間馬にまたがって飛んでいた為、街についた頃はヘロヘロだった――。

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