◆161◆まさかの事態
「試してみますか、それ」
ルイユは、僕達に振り向いた。
それとは、僕が作ったマジックアイテムだろう。
「まさかと思うけど、これを着けてそこを飛ぶ気?」
「ええ」
「ジーン達は?」
「後で合流すれば宜しいでしょう?」
ジーンは、それで構わないと頷く。
まあ、試してみるか。ちょっと怖いけど。
僕は、ジーンから外し、ルイユの背中に着けた。
人の姿だから本当のマントみたい。
ルイユにもちゃんと装着できた。
「ねえ、マジで飛び越える気?」
「うん。ルイユが言っているんだから大丈夫だよ。あ、このマジックアイテムが作動しなかたらルイユに抱き着いてね」
「じゃ飛ぶ前に試そうよ!」
驚いてイラーノが言う。
最後のは冗談だったんだけどなぁ……。
「冗談だから。ルイユに装着出来たから作動するって」
「変な冗談言わないでよ……」
『では、森を下りる』
「うん。気を付けてね」
ジーンは、僕達が乗っていないと更に速く走れるらしく、あっという間に消えて行った。
「では、私達も」
「うん……」
僕がルイユのマントの紐を掴むと、マントが地面と水平ぐらいにふわっと浮いた。僕はそのマントに引き寄せられるようにまたがる。
イラーノも紐を掴むと、同じくマントにまたがった。
「何か不思議だね。下にジーンがいるみたい」
「うん。これマントじゃないね……」
布は、イラーノが言った様に、ジーンに掛けたみたいな形をとったので、ジーンにまたがっている時と同じ格好だ。
「では、行きます!」
ルイユは、崖を飛び越えた!
いや飛び越えたんじゃなくて飛んだ。
崖の下は、大きな川だった。右手のずっと先に橋が見える。本来ならあそこを渡るはず。
崖は、かなり高い。落ちたら生きていないだろう。
「ひゃぁ。高い! でも平気だね。布なのになびかないし。ただ速いから風が凄いね」
「うん。凄い」
風も風景も。絶景だ。
「下りますよ」
数分後、ルイユが言った。
向こう側の森に到着だ。
バチ!
「う……」
うん? 何?
下りようと降下を始めたら、ルイユがうめいた?
「ルイユ大丈夫? うわぁ……」
声を掛けるやいなや急降下を始めた!
「ちょっと! どうしたの!?」
イラーノも驚いて声を掛けるもルイユは何も返してこなかった。
何とか木に当たらずに着地する事が出来たけど、ルイユの様子が変だ。
両膝と両手をつき、何か苦しそうなんだけど。
「ルイユ、大丈夫?」
「申し訳ありませんでした。……一旦、変化を解きます」
「え!?」
何で変化を? 一体何が起きたの?
「何ここ……」
驚いていると、横でイラーノが辺りを見渡しながら呟いた。
「な、何? どこか変なの?」
「ここ凄い魔力が充ちているみたい。俺まだ上手くコントロールできないから凄い魔力だけ感知する様にしていたんだけど……緑だよここ」
「え? ちょっと待って? それってあっちから見てわからなかったの?」
「うん。わからなかった」
『私もわかりませんでした』
と、ルイユも言っているって事は……結界か何かで覆われていたって事?
それでルイユが、衝撃を受けて……あ! リリン!
「リリン!」
僕は、慌ててリュックを覗き込んだ。
リリンは、ぐったりしている。
「リリン! しっかりして!」
「え? リリン、気を失っているの? じゃここって、モンスターを排除するような結界とか?」
一緒に覗き込んだイラーノが言った。
『いいえ。この結界は、ある条件の元発動する様ですが、私達は魔力を吸い取られただけです』
「え? 魔力? リリンは、魔力を吸い取られて気を失ったの?」
『そうですね。私も人間の姿が保てない程、魔力を失いました。はっきり言ってゲロゲロです』
ゲロゲロって……。
あぁ、あの時の僕みたいに具合が悪いって事か。
あれ? 僕は平気? イラーノも?
『すぐにここを出たいですね。今も回復するより若干失う方が多いです』
「え? 今も吸い取られ続けているの?」
それって、この森全体に掛けてあるの?
人間には効かない結界。
いや、モンスターにだけ効く結界だ。だとしたらこの森には、何か守りたいものでもあるのだろうか?
「あ、ジーンは大丈夫かな?」
『大丈夫でしょう。もし麓もこんな感じなら入れないのですから』
あぁなるほど。
具合悪くなるし、そこで待つか。
僕は、マントを回収する。
『それより下りましょう』
「うん。そうしよう」
イラーノが言って、僕も頷いた時だった――
「いや、待って頂こう」
そう声が掛かった!
振り向くと、エルフが立っていた!
イラーノみたいに整った顔つきに、尖った耳。
本当に耳が尖っている。
って、感心している場合じゃなかった!
この結界を張ったのって、人間じゃなくてエルフだったのか。
これかなりのピンチだよね……。
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