◆137◆変わり者の錬金術師マドラーユ

 ここか。

 歩く事30分。煙突がある家々が並んだ一つに、マドラーユさんがいる家があった。


 「凄い。家に結界が張ってある」


 「え? そうなの?」


 イラーノは頷く。

 実験しているみたいな事言っていたからかな?


 トントントン。

 イラーノがドアを叩く。


 「すみません。お手伝いに来たのですが」


 イラーノがそう言うと、どこからか声が聞こえて来た。


 「鍵をあけたから入って来て」


 女性の声だ。

 イラーノがドアを開ける。そっと中を伺うと椅子とテーブルのみの狭い。奥にドアがある。そこが研究室?


 「失礼します」


 イラーノは、そう言いつつそっと入って行く。僕もそれに続いた。


 「こっち来てくれる?」


 声はやはりドアの向こう側から聞こえ、奥にマドラーユさんが居る様だ。

 また、ドアをノックしてイラーノは、ドアを開けた。

 中は驚くほど狭かった。いや、物がいっぱいで足の踏み場もない状態。


 「すご……」


 イラーノは、そう言って立ち止まる。


 「あ、君達? よかったぁ。あ、ライトできちゃったりする?」


 チラッと僕達を見たと思ったらそう言った。

 マドラーユさんは、20代の女性で茶色い作業着を着て、グレーの髪をトップで一本で留めて、ゴーグルを額に上げてつけている。

 なんか、思っていた風景と全然違うんだけど。


 「あ、俺レベル低いけど出来ます」


 「じゃ、ちょっとこれ照らして、そこにある小石使っていいから」


 手元を指差してから、後ろ指差した。そこには、白い小石がいっぱい入った箱がある。


 「早くして」


 「あ、はい」


 イラーノは、物をまたぎながら石を手に取りマドラーユさんの元へ向かった。


 「ライト」


 「あぁ、君は、そこのそれごみだから家の前に出して置いて」


  指差したのは、大量な箱だった。


 「あのこれ、全部ですか」


 「うん。君はね。親指と人差し指で石を持ってちゃんと照らしてくれる?」


 「あ、はい」


 うーん。積んである箱は20個はあるんだけど……。

 仕方なく箱を持ち上げる。


 「おも……」


 何入ってるのこれ?

 外に出してから気になってこっそり箱の中を見てみると、壊れた機材? とか、何かの塊? が入っていた。

 もしかして、あの箱全部これだろうか?

 これって、実験に使う機材だよね。きっと。何でこんなに壊れてるんだろう。


 その答えはすぐにわかった――。


 バン!

 僕が、箱を取りに戻った直後に、凄い音がした!


 「二人共大丈夫!?」


 慌てて近づくと、二人は倒れている!


 「イラーノ!」


 「いった……ヒール」


 「あぁもう! また失敗!」


 何の実験しているか知らないけど、危なくないかこれ……。


 「大丈夫ですか? ヒールします」


 「ありがとう。じゃ、お願いします」


 「ヒール」


 むくっと起き上がったマドラーユさんに、イラーノはヒールした。

 周りは、さらにごちゃごちゃになっている。


 「わあ、ありがとう! あなたライトにヒールもできるなんて! 優秀な助手だわ!」


 普通助手って、お手伝いする者をさすのでは……。


 「あなた名前は?」


 「え? イラーノです」


 「イラーノくん。明日も来てくれる? ううん。専属にならない?」


 イラーノは、ポカーンとしている。


 「ヒールを使えるんだから登録しているわよね?」


 「はぁ……」


 「じゃ、指名するから私の受けてね! 決まり!」


 「えっと……」


 イラーノは、どうしたらいいとこっちを向いた。すると、マドラーユさんも僕を見る。


 「あ、そう言えば君は?」


 「クテュールです」


 「名前じゃなくて、ヒールとかできる?」


 「……で、できません」


 「そう。じゃ明日からはイラーノくんだけでいいわ」


 「え……」


 僕も唖然とする。

 変わった人だとは聞いたけど、二人で来たのに一人だけ採用って。

 まあ、僕は役に立ちそうにもないけど。


 「俺一人? でも……」


 「僕の事はいいから。指名してくれるって言ってるし、よかったよ」


 もともとイラーノの仕事探しだったんだし、僕は採取すればいい。


 「よし! 決まりね!」


 「わかりました。宜しくお願いします」


 イラーノは、立ち上がり軽く礼をした。


 「うん。宜しく。じゃ、ここら辺の壊れたやつを箱に入れて

片付けよう。えっとクテュールくんだっけ。そういうわけで、もう一つ増えたから」


 この箱の中身は、実験に失敗した残骸だったのか……。


 今日は、イラーノは実験の助手を僕は部屋の片づけをさせられたのだった。

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