◆113◆押してダメなら座ってみよう
通路は狭かった。二人並んで歩けない。だから明かりがあってもイラーノの体に遮られ、僕が見えるのはイラーノの背中――リュックのみ。
天井も僕が手を伸ばせば届く程低い。もしここで襲われたら逃げ場はない。
「ねえ、その石って何?」
「あ、これ? ただの軽石だよ」
うん? ただの石なの? マジックアイテムじゃないの?
「俺のライトの魔法は、何かを光らせる魔法なんだ。ずっとこうして持ってなくちゃいけないから軽石をくれたんだと思う」
「うん? 物を光らせる魔法?」
何でそれで石?
「石じゃなくちゃできないの?」
「そうじゃないけど、こういうのじゃないと物体を壊しちゃうかもしれないからかな?」
「え!?」
光らせるだけで壊しちゃうの? 凄い魔法だ。って、魔法ってそういうもん?
「うーん。わかりやすく言うと、リゼタさんみたいに火自体を出せる人と、物を燃やさないと火を出せない人がいるの。で、俺は後者。燃やしたら炭になるでしょ? それと同じでこの石もそうなる運命って事。要は、魔法レベルが低いって事ね」
「え!? 魔法ってレベルによってそんなに違うの?」
「違うみたいだね。魔法使いをメインジョブにするなら前者じゃないとダメみたいだよ。でも魔法を使えれば、冒険者を辞めても仕事はあるから剣士よりはいいかもね」
「ふ~ん」
そういうものなのか。
それにしても長いなこの通路。
たぶん、街からは出たと思うんだけど……。
「ねえ、出口見えて来た?」
「うーん。道は真っすぐみたいだけど、見えてこないね」
「一つ聞いて言い? そのライトっていう魔法どれくらいもつの?」
「さあ? この石次第。砕けたら何かを犠牲にして明かりをつけないといけないね」
「………」
やっぱりそうなんだ。
でもこれを持たせたって事は、足りると思ったからだよね?
「心配なら走る?」
「……うん」
真っ暗になるぐらいなら走りたい。
僕達は、走って進む事にした。僕達の息遣いと走る足音が聞こえて何か不気味なんだけど。
どれくらい走っただろう。30分は走った。
「あ! 階段みたいのがある!」
「え? 本当!? よかったぁ」
僕はもうへろへろだよ……。
階段を十段程登ると突然行き止まりになった。って一段一段が高い。
きっとどこかが隠し扉なんだろうけど……。
踊り場みたいな所は、立てない程低い。もちろんイラーノしか上がるスペースはない。
色々押してみたけどびくともしない。天井も開かない!
「参ったね」
「どうするのこれ? 聞けばよかった」
「いやたぶん、使った事ないんじゃないかな? ギルドマスターとサブマスターが抜け道を知っているだけで……」
マジですか。いや確かにそうかもしれないけど、戻る事も出来ないし。これなら普通に街から出ればよかった!
作戦では、ロドリゴさん達が戻って来る前に出て行った事になるから出来るだけ僕達が出て行った時刻がわからない為にだろうけど……。
「やばい。もう石が持たないかも!」
踊り場にいるイラーノが叫んだ。ここまで来て真っ暗ですか!?
そう思ったら辺りが真っ暗になった!
「あ、砕けた……」
そうボソッとイラーノが呟く。
真っ暗闇になった。一切明かりが無い。
「あぁ、失敗した。代わりになるものを何か出しておけばよかった……」
たぶん膝立ちでいるイラーノが呟いた。
僕は、踊り場の一段下に立っている。
一段は、僕の腰ほどあって、よじ登って来たんだ。だから落ちたら大怪我をする。高さはあるけど奥行きは一人分しかない。
これ目が慣れても真っ暗なんだろうな……。
僕は壁に手を突いて屈む。
立っているよりはいいだろうと、座る事にした。階段に座っても下の段に足がつかないからちょっと怖いけど……。
うん?
何故か明るくなった!
自分の周りが明るい! 目の前の下りの階段が見える程に!
「何したの?」
イラーノが驚いて上で叫んだ。
座っている所を見れば、座っている段の側面の下の方が開いている……。
え? 出口ここ!?
じゃ、この踊り場って意味ないじゃん!
「え? あ、うわー!!」
僕は、そう思って振り向いて出口を見ようとしたらバランスを崩し、かぱっと開いた階段の側面から転げ落ちた!
ドサ!
思ったほど痛くなかった。地面は土。
ここは森の様だった。
あの階段の側面は、やっぱり一方通行らしく落ちて来たと思われる場所を見ると岩だ。もう一段下の分ぐらいから地面より突き出ているみたい。
見上げれば岩の裏面が見える。いや、ここは岩のトンネルのような感じ。
「あ、うわー、どいて!」
イラーノが、おしりから落ちて来た!
何とかずれて、下敷きにはならずにすんだ。
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