◇112◇二人からの餞別

 「それと、ここら辺の地図とお金だ。これは、ロドリゴからだ」


 そう言って、僕達の前に出した。


 「お金!? 俺貯めてたし、お父さんに返して!」


 「僕も今回、お金手に入ってあるから……」


 「そんな物、すぐになくなる。ここを出れば、何をするのにもお金がかかる。まあ、君達は外で寝てもモンスターに襲われる事もないだろうから野宿は可能だろうが。使わないで戻って帰って来ても構わないから、な」


 「わかりました……」


 そう言ってイラーノは、受け取る。


 「ここからずっと東にここの比じゃない大きな街がある。街の名は、モイクナチ。……ここだ」


 イラーノがもらった地図を広げたので、ダイドさんが指差した。

 このノラノラシチ街の西に僕が住んでいたレッド村があり北にレッドアイの森がある。

 レッドアイの森は、この街より東にまだ森が暫く続いていて、道で途切れてまた森がある。その森の更に行った東側に大きな街があった。


 「俺達は、この街を拠点にして昔は活動をしていた。で、楽園は更に東だと思われる」


 「「え?」」


 僕達が驚いて、地図から顔を上げてダイドさんを見ると、行くんだろうと言って頷いた。


 「暫くはこの街を拠点にして生活した方がいいだろう」


 僕達は、ダイドさんの言葉に頷いた。

 僕達の考えは、お見通しだったみたい。

 まあそうだよね。僕は、結構無茶していたし、イラーノも親の事を知りたいとロドリゴさんに言ったんだから。


 「クテュール……」


 「あ、はい」


 ダイドさんが真顔で僕に語り掛けて来た。


 「ロドリゴは、俺にもイラーノの事を隠していた。彼が、冒険者になるまで知らないでいたんだ」


 「え?」


 驚いてイラーノを見ると、イラーノも驚いている。


 「俺達は別に、幼馴染というわけではない。生まれ育った場所も一年間いた場所も違う。そんな俺達が出会ったのがモイクナチ街だ。二人がつるんでいた所に俺が加わったような感じだけどな。その頃には二人共結婚をしていた」


 「うん? ダイドさんはしてないんですか?」


 聞くか普通という様な渋い顔をダイドさんは、僕に向けた。


 「あ、ごめんなさい」


 「はぁ……。いいか。結婚したいならいろんな町や村に行かないと出会いはないぞ!」


 「……いや、僕は別に今はそんな事、微塵にも思ってないけど」


 「俺も」


 なんで結婚の話になったんだ?

 あ、そっか。僕が質問しちゃったからか!


 「まあ、あれだ。二人を同じ部屋にしたのはきっと、イラーノの事をクテュールにも話すつもりだったんだと思う」


 僕達は頷いた。

 そうだ。もし父さんがそのまま引き取っていたらイラーノは、僕のお兄さんになっていた。

 ムダマンスを斬ったのは、僕を守る為だったのかも……。


 「無理はするなよ」


 「うん」


 「はい」


 僕達が返事を返すとダイドさんは、微笑んで頷いた。


 「あの……お父さんはどうなるの?」


 「冒険者ギルドの人達が来て、ムダマンスを含め調書をとる。その人達が来る前にここから出てほしい」


 僕達は頷いた。


 「あ、そうだ。これもやろう」


 本と何故か石だ。何だろうこの石……。

 本は、ギルドの本みたい。


 「隠し通路から逃がすからイラーノ、すぐ用意できそうか?」


 「あ、はい」


 僕は、用意が出来たのでリュックを背負う。そうしたらリュックの下から作った帽子が出て来た。

 そうだった。イラーノから代金もらったのに作ってないな……。

 これあげるかな? もう作る暇は、しばらくないだろうし。


 「用意できました!」


 見れば僕より大きなリュックを背負っていた。

 何が入っているんだろう。それよりも、僕と違って布じゃないだろうし、あんなにパンパンで重くないのかな?

 もらった本もイラーノさんが持って行ったからあれに入っているだろうし。


 「じゃこっちだ」


 ついて行けば地下に下りていく。牢屋の奥に進む。ひしゃげた扉の向こうには、もう死体はなかった。


 「ここだ。この隠し通路から外に出れる。結構長いはずから」


 そう言ってダイドさんが壁を押すと、外側に開いた! 通路は真っ暗だ。


 「ライト」


 イラーノがそう言うと、手元が明るくなった。手のひらには、ダイドさんが持って来た石が乗っていた。


 「気を付けてな。ロドリゴとクテュールの母親の事は任せておけ」


 「お願いします」


 僕達は、そう言ってダイドさんに軽く頭を下げた。イラーノが先に入り、僕がその後ろについて行く。

 僕が入るとパタンとドアが閉まった。振り向けば壁にしか見えない。

 たぶん向こう側からしか開かないドアなのかも。もう前に進むしかない。

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