◆047◆商談

 何か建物内は、熱かった。

 開けっ放しの扉の奥から筋肉もりもりのおじさんが出て来た!

 焦げ茶色の髪は短くつんつんで、あずき色の作業着。

 お店の人には見えないんだけど……。


 「おう。ナットスじゃないか!」


 「ガードラさん、これで……」


 「待って!!」


 ナットスさんがカウンターに置いたお金の上に、僕は手を置いて叫んだ。

 二人は驚いて僕を見ている。


 「勝手に何を買う気ですか?!」


 「何て。マジカルペンだよ」


 「……え?」


 マジカルペン? ここで?

 僕は辺りを見渡す。商品は一切おいていない。どちらかというと工房の様な感じがするんだけど……。

 僕、騙されている?


 「ここは、工房だよ。マジカルペンは、鉱石から出来ていて、ペンの様に細くして加工したものなんだ」


 ナットスさんはそう説明してくれた。という事は、ここで作ってる? マジカルペンの工場?!


 「で、一本融通してくれないか?」


 「わー。待って!」


 ナットスさんが勝手に話を進めるので、僕は焦った!

 将来的には欲しいと思うけど、今無理して手に入れなくてもいい!


 「うん? 二本は無理だぞ」


 「二本って……」


 「そうだな。いくらある?」


 「22,000Zほど」


 「いいだろう。色弾きされたのなら22,000で売ろう」


 「よし! 買った!」


 「ちょっと待って! 色弾きって何?」


 勝手に話を進めて、色弾きのをって……。商談しないでよ!


 「こういう色だな」


 ガードラさんは、紙を持って来ると、クリスタルの様な棒を二本持って来た。そして、紙の上で線を引くように押し付けた。

 驚いた事に、線が引けた! これがマジカルペンみたい。

 一つは黒。一つは、紫っぽい。比べると一目瞭然だけど、そんなに目立たない色の違いだ。


 「この色でもいいのなら22,000でどうだ?」


 「普通は、個人では売らないからこの色でもこの価格では手に入らない。安くて30,000Zの値打ちがあるものだからな!」


 と、ナットスさんが言うからつい頷いちゃった!


 「キャップもつけてやる」


 そう言って、マジカルペンをガードラさんから受け取った。

 ペンは、持ってみると結構ずっしりしている。細長い濃い紫のクリスタルの様な見た目で、先っぽに粘土がくっつけてある。この粘土がキャップだ。


 「そのキャップがないと、擦れて色がつくからな」


 ナットスさんが、そう教えてくれた。そして、「はい」と、残ったお金500Zをくれたのだった。

 くすん。あっという間にお金が消えた。


 「それで地図も買えるな」


 ナットスさんが、満足げに言ったのだった……。

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