◆029◆辞められないんだ

 「もういつまで寝てるのよ! 起きなさい!」


 「うーん? え?! リゼタ!?」


 「やっと起きた! 昨日はもしかして、興奮して眠れなかった?」


 リゼタの言う意味とは違う意味で、興奮して眠れなかった。

 って、何でリゼタが起こしてって、凄い殺気が!!

 扉の前で、ジッとこちらを睨んでいるエジンがいた。

 睨むぐらいなら一緒に起せばいいのに……。


 「もう。おばさんに、私達が来る事伝えてなかったの? って言うか、冒険者になった事言ってないの?」


 「えっと。母さんは、僕に冒険者になって欲しくないみたいで」


 「へぇ。じゃ辞めちゃえば?」


 「もうエジン! 私は勿体ないと思うけどな。で、クテュール自体はどう思っている訳?」


 そうリゼタに問われ僕は俯いて、布団をギュッと掴んだ。

 冒険者を辞めたい!


 「僕は……冒険者を辞められない」


 「辞められない? って、どういう事?」


 「テイマーは、辞めても監視がつくらしいから」


 「まあ。そうだろうな。別に冒険者辞めたからって能力がなくなるわけじゃないからな。逆にあったから冒険者になったんだし」


 エジンは、腕を組みそう言った。

 そんな事、僕もわかってる。だから辞められないんだ!


 「だったら私がちゃーんとサポートしてあげるわ」


 「いや、いいです」


 「あら、私じゃ頼りにならないって言いたいの?」


 「いや、そうじゃなくて……」


 厄介だって言ってるんだ!


 「起きませんか?」


 「あ、おばさん。今起きました」


 「じゃ皆でご飯にしましょう」


 「はーい!」


 「食べて来てないの?」


 「別腹よ」


 いやいやいや。朝ごはんなんだけど?

 しかし、どこに入るのやら。



 ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇ ◆



 皆で朝ごはんを食べ終わった。

 エジンも食べていたけど、もしかしてリゼタに合わせているのか? そのうち太るな!

 さて、母さんに何て切りだそう。


 「クテュール。私が言ってあげようか?」


 僕がなかなか言い出せないのがわかったのか、リゼタがそう聞いて来た。僕は首を横に振って断った。


 「母さん、ごめん。やっぱり、冒険者になるよ」


 「え?! 何故? 二人に何か言われたの?」


 「違う。……僕は、テイマーだから辞めても監視がつくんだ」


 「テイマー?」


 母さんが聞き慣れないジョブだと、首を傾げる。

 しまった! ジョブは言わなくてもよかった!


 「モンスターを手なずけるジョブだよ」


 「ちょ! エジン! 何で言うんだよ!」


 「自分でジョブの名を言っておいて何だよ!」


 「クテュール! 本当なの? あなたの父親を殺したにっくき相手じゃない!」


 母さんは、僕の両腕を掴んでそう抗議した。


 「そうかもしれないけど、あの子達はいい子だよ」


 パシン!!


 僕は、左頬に痛みを感じた! 母さんが泣きながら僕をビンタしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る