◆027◆母の想い
「ただいま~」
「クテュール!」
扉を開けた途端、母さんは今まで見たことがない速さで僕に抱き着いて来た!
いたたた! 母さん力強すぎ!
「ちょっと! 痛いって!」
「もうあなたは、どこに行っていたのよ。心配したのよ」
僕は、腕をさすりながら苦笑いする。
そう言えば、何て言い訳するか考えてなかった!!
「えっと。ごめんなさい」
「ううん。もういいわ。戻って来てくれたし。あなたは、冒険者にならなくてもいいのよ。ね!」
「うん。ありがとう。でも、ほら! 僕でも冒険者になれたんだ」
「え……?」
僕は、左手につけている冒険者の証のブレスレッドを見せる。それを驚いた顔で、母さんは見つめていた。
「ぼ、冒険者にならないんではなかったの? 何で! いやで逃げ出したんでしょ?」
「え?」
「冒険者にならないって言っていたじゃない! どこかのお店で働くって!」
「………」
母さんは、僕にすがるようにして泣き出してしまった!
どういう事? 母さんは僕に冒険者になって欲しくなかったって事?
確かに父さんが生きていた時は、剣の稽古を付けてもらった事もあった。でも剣士には向いていないって言われて、いじけて剣の稽古はしなくなった。
その後、父さんが亡くなった。
その頃には、冒険者になりたいと思うのも薄れて、だから父さんが亡くなってからは冒険者になりたいなんて、言った事が無かった。それどころか、母さんが言ったように、お店屋で働くって言って、それを目指していた。
だから母さんが、どう思っているかなんて考えた事もなかった。
でもよく考えれば、父さんの跡を継いでとか、冒険者にならないの? と言われた事はない。
「母さんは、僕に冒険者になって欲しくないの?」
「ならなくていいわ! ならなくても生きていけるもの! 貧乏でもいい。だから、ね。お店屋さんで働いて!」
「……うん」
僕が頷くと、母さんはパッと顔が明るくなった。
父さんと同じ冒険者になって欲しくなかったんだね。僕知らなかったよ。
成り行きでテイマーにって思ったけど、よく考えれば、エジンが僕を殺そうとしたのは、僕が冒険者になってリゼタと組む事になるからだ。
ならなければもう襲ってこない。
冒険者になろうと思ったのもエジンに対抗する為だったんだし、別に無理してなる事ないよね?
辞退しよう! 今年中に仕事を探せばいい!
「あらやだ。何か買って来ないと晩御飯がないわ」
「いや、僕たぶん、入らないと思う」
「そう? でも何か買って来るわね」
「あ、じゃ僕も一緒に行くよ」
「じゃ行きましょう」
僕は、母さんの笑顔にホッとする。
そうだよ。別にテイマーにならなくたって、キュイ達に会いにいけばいいんだし。僕は、そう簡単に思っていた。でも人生はそう上手くいかないようだ――。
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