◇006◇お友達の儀式

 もし僕が、テイマーになれれば冒険者として仕事が出来る!

 母さんを養える!

 でも確か、冒険者ギルドで適正テストがあったはず。

 剣士になるのには、剣を扱えるだけではダメで、それに合格しなくてはならない。

 魔法使いだってヒーラーだって、そのジョブに関する魔法を一つは扱えないとなれない。魔力があっても合格出来ないんだ。

 僕に素質があっても試験に合格できるかわからない!

 しかもその試験が、モンスターを捕らえて来る事だったらどうしよう……。


 「はぁ。無理だ……。テイマーなんて」


 『どうした? 何が無理なんだ?』


 「たぶん、キュイが言っているのは、テイマーというジョブなんだ。モンスターを従えるジョブで、認められないとなれない。モンスターと話せるだけじゃなれないんだ」


 そもそもモンスターと話が出来ているかなんて、他の人達には確認のしようがない。


 『なるほど。モンスターを従えていればなれるんだな? では、一人つけよう。どうだ?』


 「つけるって……。なんでそこまで?」


 『私は、人間と仲良くしたいと思っていた。やっと会話が出来る者と出会った。友好を深める第一歩だろう?』


 僕は、目をぱちくりとする。

 人間と仲良くしたかったんだ。でもキュイは、勘違いをしている。冒険者は、モンスターを倒す職業で、テイマーは別にモンスターとそういう間柄ではないと思う。

 でも僕は、キュイ達と仲良くしたい。


 「一ついいかな? そのテイマーってモンスターと仲良くなるジョブじゃないと思う。あと僕と仲良くなっても、人間と友好を築けるとは思えない。ここら辺にいる人間達は、モンスターを敵視しているから……」


 『そうなのか? あなたが架け橋になってくれればと、思ったのだが』


 「それは無理だよ。僕は別に偉くないし、偉い人と繋がりもないし。他の人と仲良くなるきっかけにはならないよ」


 それを聞いたキュイは、目を閉じた。何か考え事しているみたい。

 そして、パチっと目を開くと、僕をジッと見つめる。


 『では、クテュールと仲良く出来るだけでよい。これも何かの縁だ。それにテイマーだったか、それになれば殺そうとした相手と対等になるのだろう? チャレンジしてみてはどうだ?』


 「僕とお友達になりたいって事? こんなに弱い僕と?」


 『強さなど関係ない。クテュールとは、仲良くできそうだ。どうだ? 私とお友達になっては、くれないか?』


 「なる! 僕も運命を感じてたんだ!」


 なんだろう。この気持ち。今まで感じた事ない嬉しさ。感動。


 『では、証を示そう。顔の近くに来てくれないか?』


 「え? うん……」


 なんで顔? そう思いつつ、僕は、大きな顔に近づいた。

 こう見上げると、本当に大きい。

 自分より小さなカラスだって怖いと思う時があったのに、キュイは全然怖くない。


 『これが我々の友情の証だ』


 「ひゃぁ……」


 ペロン!

 くちばしから出て来た大きなベロで、ちろっと頬をなめられた!

 びっくりした! まさかなめられるとは思わなかった!


 『さあ、クテュールも』


 「え? なめるの!?」


 『まあ、接吻でもいいか』


 接吻ってキスって事!?

 僕は頷く。初めてのチューがモンスターだなんて……。

 僕はキュイのくちばしに、チュッと返した。

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