第34話:期待しないで。




「マナ?」

 ライツは不意に足を止めた愛那へと振り返る。

「どうした?」

「私・・・・・・」

(嫌だ。あの王子にどう思われようがどうでもいいけど、この人に誰かと比べられて残念に思われるのは・・・・・・)

 出会ったばかりだというのに、ライツに嫌われるのが恐くて愛那は逃げ出したくなった。

(だけど、今逃げても、この世界に私の行く場所なんて・・・・・・)

 黙ってしまった愛那の手をライツの両手が包む。

「マナ、俺が何かしてしまったか?」

「ううん。ごめんなさい。何でもないの」

 そう言って歩き出した愛那の横にライツが並ぶ。

 愛那はチラリと隣のライツを見て、勇気を出して言ってみた。 

「あのね、あまり期待しないでね? 私、全然美人じゃないから。あの王子にも言われたから。あの人の婚約者さん、すごく綺麗な人なんでしょう? 私なんか、婚約者さんの足下にも及ばないって、だから・・・・・・」

「!」

 今度はライツが足を止め、つられて愛那も立ち止まった。

「あいつは・・・・・・」

 怒りを含んだ声音。

「あいつは、そんなことを君に言ったのか?」

 確かに、レディルが愛那に対し暴言を吐いたとは聞いていたが、詳しく何を言ったかまでは知らされていなかった。

「すまない。本当に。・・・・・・マナ。あいつの言うことは気にしないで欲しい。あいつは、子供の頃からルーシェのこととなると、本当にはた迷惑な馬鹿になるんだ」

「・・・・・・馬鹿?」

「ああ、馬鹿だ。一途と言えば聞こえがいいが・・・・・・」

 ライツが溜め息を吐く。

「あの、王子のことはいいの。とりあえず、あなたが私の容姿に期待しないでくれたらそれで」

「・・・・・・すまない。俺がマナの顔が早く見たいなんて言ったから不安にさせてしまったんだな。だけど、俺は君が美人であることを期待したわけじゃないんだ。姿が見えなくても、俺は君のことを可愛いと思ったし、話していて、今マナがどんな表情をして話しているんだろうって、気になった。だから、期待してるとすれば、君と顔を見合わせて話が出来るようになることだよ」

(そうか。こっちだけ顔を隠してお話しするなんて、よく考えたら失礼だよね。あぁ、こんな優しい人に、気を遣わせちゃった)

 愛那はしょんぼりと肩を落とした。



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