157.同人
反対側の三郎に目を移す。
彼は意外にも大人しく巫女舞を見物していた。口を少しだけ開けて、巫女が神楽鈴を振り回す様子に見入っている。
彼の気性なら、お宮の神事を抹香臭いと一蹴する印象があった。
静と動、真逆の性質だ。
古神道に造詣や興味があるとも思えない。
何を考えているのか。
その胸中はいかほどばかりか。
「巫女舞、好き?」
そんな月並みな呼びかけしかできなかった。
三郎が気づき、頭だけ振り向く。
その顔に浮かんだ表情は、僕のイメージする彼の荒さと比べ、どこか切なげでドキリとした。
「ううん……えっと、懐かしいなって」
懐かしい? 三郎が?
彼の住んでいる地域はどこだったか。
僕らと同じく子供舞を体験していたのか。
記憶を探っても、町内会で三郎と面識はなかったはず。
範囲内の、別の会に所属していたということか。
他の児童に混じって舞う姿など想像もつかない。
「そっか、さーやも子供舞に出てたんだね」
「え? こども……まい?」
「あれ? 違った?」
「あ……うん、そうそう。子供舞。さーやも出てたよ」
なんだ、今の反応は。
……違った?
僕と結城の会話を聞いて話を合わせただけとか。
「ねぇ、あーちゃんあーちゃん」
ふいに結城に袖を引かれる。
指先で二の腕を突(つつ)かれた。
「なに?」
「あれ」
彼が小さく指を差している。
その方向には、神楽殿を遠まきに眺める2人の女性がいた。
遠目には判別しづらいが、浴衣を着た僕らと同世代の少女のようだ。
結城が僕の手首を取ってそちらに歩き出してしまう。
知り合いなのか。
地元のお祭りであるから同級生と遭遇するのは珍しくない。
ベンチ付近の広場の外れ。
植林樹が植えられ、照明の照射範囲外でわりと薄暗い。
背後は山から流れる小川があり、ちょろちょろとせせらぎが聴こえ、水の匂いがした。
「や、久しぶり」
結城が少女らに親しげに声をかける。
彼女らは一瞬驚いたが、すぐに笑顔になった。
「結城ちゃん! 久しぶり」
小柄な方の少女が結城の手を取る。
彼女らもこちらを知っているようだ。
声量は意図的に抑えているものの、若い女性特有のテンション高ぶる交友だった。
「戻ってたんだね。会えると思ってなかった」
「うん……まぁ、ちょっとだけ。里帰りついで。お祭りくらい来たかったし」
少女のうち片方は小柄。
身長は150あるかないか。
三郎よりは高いものの、どんぐりの背比べだ。
紺色でアネモネ柄の浴衣を着ている。
降ろせば背中ほどにありそうな長髪を後頭部で団子にしていた。
目はタレ気味。小粒な全身と相まって、対比的に瞳が子供のように大きい。
涙袋の下に、キラキラ光る星型が曲線の星座を作っている。ラメと呼ばれるきらめき塗料だ。
僕も結城も三郎もしていないが、若い祭り客には珍しくない。
彼女は大人しそうな外見をしているが、結城への応対や振る舞いの余裕さから芯の強さが垣間見える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます