98.サイコ・ゲシタルト・モダリティ
「何だかいつもとお店の雰囲気違うね。大人っぽいって言うのカナ?」
結城が苦笑する。
冗談交じりだった。
本当にそうは思っていないだろう。
「どうだろうね……」
店内にも提灯、花火のポスター、ヒョットコやオタフクや天狗の面といった、祭りを彷彿とさせる装飾がされていた。
おそらくは店員が苦心し、手ずから飾り付けを行ったのだろう。
落ち着いた雰囲気を作り出そうとする努力は伝わる。
しかしやはり、無理やり感は否めない。統一感がなくて雑多であるし、客の為というよりは半分は従業員側が楽しんだ為といった感じだ。
マルチカラーLEDの作り出すムードと喧嘩し、怪しげなカルト宗教の祭事のようにも見える。
「ここに来るのも久々だなぁ……前月の中頃に1回来たっきりだっけ」
49日前。下校デート。
それは忘れも忘れられない、結城と1日だけ恋人になって別れたあの日。
否が応にも蘇(よみがえ)る苦い記憶。
あの日もここに来て、彼と遊んだ。
それ以後も来店する時間や機会はあったはずだが、何故か訪れる気にならなかった。
無意識のうちに避けてしまっていたのだろう。
僕と結城の1歩前、三郎が物珍しげにキョロキョロと店内を見回していた。
「へぇ~、ゲームがいっぱいあるねぇ。さーや、ゲームのことあんまり分からないけど、あーくんと一緒のやれるのが良いなぁ」
クルリと振り向いてニコリと笑う。
そう言えば三郎は一応、不良児童だったはずだが、ここに来たことはなかったのか。
ゲームセンターは娯楽施設として比較的ありふれた物のはず。不良でなくとも来たことがない、というのも珍しい。
不良すなわち盛り場、といった先入観は偏見かもしれない。
「一緒にやれるの、かぁ」
三郎は果たしてゲームをする趣味があるのだろうか。
コントローラーを握り締めて勇者を操作し剣を振り回してモンスターをなぎ倒すより、自分で鉄柱でも振り回してヤンキーをなぎ倒す方が好きそうに思える。
「さぶ……さーやは、どんなゲームが好きなんだい?」
「ん~、ゲームしないから分かんなぁい。どんなのがあるの?」
「シューティング、格闘ゲーム、アクションゲーム、カーレース、リズムゲーム、スロットゲーム、体感ゲームに……クレーンゲームとか……メダル落としとか」
「聞いただけじゃピンとこないなぁ」
「じゃあ好きな物は? 何が合うか分からないなら、興味の近いジャンルから選ぼうか」
「好きな物は……あーくん!」
そりゃ物じゃなくて人だ、の一言を飲み込む。
彼は話の論点が時折ズレる節がある。
下手な詮索をするより適当につまみ食いをしていって、相性の良さそうなゲーム筐体を選んだ方が無難か。
「ねぇ、あーちゃん。このゲームやってみたら?」
少し離れた位置にいた結城が、筐体の1つを指差している。
見たことのない、奇妙なガンシューティングゲームだった。
真っ黒な横広の筐体が2セット並んでいる。
色は室内が薄暗いせいではなく、外装そのものが黒い。
驚く程飾り気がない。最低限の装飾は左右と上部のゲームタイトルロゴだけだった。企業のメーカーロゴさえ見当たらない。
ゲーム名は『Psycho-Gestital-Modality』とある。
サイコ・ゲシタルト・モダリティ、と読むのだろうか。
モダリティとは確か様相性のことだったはず。様相性とは話し手による内容の判断や感じ方のことだが、早い話が推測という意味だ。
直訳すると、「きっと心の形だろう」。なんのことだかサッパリだ。
意訳としても合っているのか定かでない。
「変なゲーム機だな」
「そうだね」
筐体手前に、ホルスターが付いただけの台座があり、無造作にガンコントローラーが2丁差し込まれていた。
こちらも実に大味なデザインや色をしている。真っ黒な筐体に対し、真紫だった。
ガンコントローラーは銃の形はしているものの、既存の実銃とは似ても似つかない。
表面の肌触りはツルツルで、極端な程に凸凹がない。
一般的なそれより一回りも大きく、銃口だけ異様に歪な膨らみ方をしていた。
ただ大きさのわりに重さはない。素材もFRPか何かだ。
まるで宇宙人が持っている銃のような、ヘンテコなガンコントローラーである。
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