17.シール手帳

 撮影が全終了して、垂れ幕を開き外へ出る。

 呼吸して空気が軽く感じた。冷房が涼しい。

 半密室に加えて気温差もある。


「キャハハ、ちょっとヤダー」


 近くで声がしてドキっとする。

 ちょうど隣の機体に、大学生くらいの男女が入ろうとしているところだった。

 後ろめたさなどないはずなのに、注目されるのではないかと焦る。


 僕の懸念など関係なく、彼らは仲睦まじく戯れながら、写真シール機のボックスへと消えていく。


『シールができたよ。また来てね』


 外側に設置されたスピーカーから、先ほどの猫キャラクターと同じ音声が発せられた。


 ストトン、と軽い音。

 2枚のシールシートが下部の取り出し口に落ちる。


「どれどれ、綺麗に撮れたかな」


 結城が屈み、透明なプラスチック板を引き開け手を突っ込む。

 シートを取り出し品定めする。


「どう?」


 彼の横から手元を覗き込む。


 画面で表示されていたより、ほんの少しだけピンボケ。

 飛ばしたホワイトのせいか。

 美白というより不健康そうだ。


「うん、上手く撮れてる」


 彼が言うなら、そうなのだろう。

 画素数は証明写真と目視で分かる差はない。


 縦20ミリ横30ミリ程度のシールが6枚。

 それより1.5倍ほどのサイズが3枚の組み合わせ。


 てっきり全シールが、同じ大きさで出てくるものだとばかり思っていた。

 大きいシールは、特に仲の良い友人や恋人に渡す為だろう。


「あーちゃん、手帳持って……ないよね」


 結城が通学鞄からシール手帳を取り出しページに貼る。

 既に他のシールもたくさん貼られていた。


 同じクラスの女子の他、他クラスや学年の違う女子とのショットもある。

 遊び方として当然だが、距離が近くベタベタ引っ付いている。


 何故だろう。

 気のせいか、胸中が僅かにざわつく。


「ないなぁ。写真シールを貼る習慣がないし」


「えいっ」


 ペタリ。

 結城が1枚を僕の額に貼り付けた。


「なにするんだよ。おデコにシール付けて、マヌケみたいじゃないか」


「あはは、携帯電話の裏面にでも貼ったら?」


 僕は額からシールを剥がす。

 粘着力が高くて産毛が抜けた。

 とりあえず鞄の側面に付けておく。


「目立ちすぎるって。帰ったらアルバムか冷蔵庫にでも貼っておくよ」


 冷蔵庫の表面は便利である。

 要るシールも要らないシールもとりあえず付けておける。

 目につきやすく、平らでスペースも広い。


 まさにシールを貼る為の家電と言えるだろう。

 今も自宅の冷蔵庫は、幼い頃になすり付けた駄菓子付録のシールで一面ベタベタだ。


「ふふ、あーちゃん撮る時に照れちゃってる。可愛い」


 結城がシールをツンツン指でつつく。


 その時、女子高生らしき3人組が黄色い声を上げながら別のIPBボックスに入っていく。


「それでこの前カレシがさー」

「またその話? アンタ昨日も同じこと言ってじゃん」


 それなりに繁盛している。

 ボックスの前に立っていると目につきそうだ。


「ゆ……結城。そろそろ別のゲームに移ろう」


「なんで? もうちょっとゆっくりしようよ。時間もあるんだし」


 ゲームセンターに僕と彼がいても不思議はない。

 どちらもゲーム好きで、この店でクラスメイトと会ったこともある。


 だが普段、あまり2人で入らない写真シール機に入ったとなれば話は別だ。

 知人に知られたら噂になりかねない。


「い……いいから。ほら、新しい筐体が導入されてるかもしれないよ」


 彼の手を取ってその場を離れる。


「やぁん、あーちゃん大胆」

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