異次元の門で

くるみ

第1話

魂は異次元の世界に旅立っていく

異次元の門を通過するとき

全てのモノは持ち込めない


私は一片の思いを捨てきれずに

異次元の門を入ろうとした


門番からどこから来たと聞かれた

私は振り返り指さした

広がる闇に無数に浮かぶ世界が揺れている


青鈍色のひときわ大きな世界が

闇に浮かんでいた


この門を通るには

全てのモノを捨てていかねばならない

隠しても無駄だ

門番が言った


躊躇していると

次々に

門の中へ入るモノたちがいた


同じように

どこから来たと聞かれ

それぞれが指さした

無数に浮かぶ世界がゆらゆら揺れていた


淡く黄色に輝く小さな世界や

黄緑色の世界

色とりどりの世界からこの門にたどり着いたらしい

聞かれない限り無言で門をくぐって行く


私は青鈍色の世界から来た

それは地球という星に住む人間の世界と瓜二つだった


私たち生命体は

誕生する世界を選べない

淡く黄色に輝く世界か

黄緑色の世界か

銀色の世界か

無数の世界が存在したが

誕生する世界は生まれる前から決まっていた


青鈍色の世界はひときわ大きなこの世界で

ときどき他の世界からやってくるモノがいた


しかし青鈍色の世界から他の世界にはワープすることはできない

一生をこの世界で過ごす


生命体は同じ形態をしていたが「種」が異なっていた

たとえば黄色い世界には黄色い世界で生きていく全てが揃っていたが

黄色い世界で使えないものは初めから備わっていない

思考も黄色い世界を生きるために必要なものだけに設定されている



たとえば青鈍色の世界から迷い込んだモノがいても

黄色い世界では生きていくことができない

それは海中でしか生きられない魚が、陸では生きられないのと似ていた


同時に青鈍色の世界の思考や行動は

強い拡散力を持っているため、他の世界にひとたび入り込むと

その世界は消滅し、青鈍色の世界に変わりやがて大きな青鈍色の世界に吸収されていく

青鈍色の世界は拡大し続けている


私は生れたくて、この世界に生まれたのではない

ちがう世界に生まれたら違う世界の住人として生きていっただろう

願ったとしても、世界は絶対に選べない


個体が意思を持つ生命体になる前に、それは決められていることなのだ

とくに青鈍色の世界へ生まれ落ちたものは

青鈍色の世界で生きていく術を身につける

誰もが、同じような思考を持ち、やがて命が尽きると

この門を通過して異次元へと進んでいく


青鈍色の世界には善も悪も無い

他の世界と違うのは、怨念が渦巻く世界だということ

生れたときから当たり前のように存在している


地球上には泥ような干潟で飛び跳ねるムツゴロウのような生物がいる

なぜこんな泥んこの中で生きているのかと不憫に思うのは傲慢

その生き物にとっては、泥んこの中は居心地がよくここ以外では生きていけない

そこの環境に適した様な生き物として生命を授かったのだから


それと似ていた

怨念の渦巻く青鈍色の世界では

普通に全てのモノが怨念を抱き、それに付随したことで生きていた

青鈍色の世界の中のものは、そのことを良いとも悪いとも思わない

なぜなら青鈍色の世界に生まれ落ちた瞬間からその世界を構築する生命体として

機能するように命を授かったのだから

それが青鈍色で生きていくには必要不可欠なものだから。


門をくぐる時まで他の世界があることすら知らないで一生を終える


怨念を持つ青鈍色の世界のモノは、「怨念」の概念すら皆無な他の世界へ入り込むと

たとえば、リンゴの箱のなかにたった一つの腐ったリンゴが入っていると

たちまち周りのリンゴが腐るような感覚で、

その世界を変える

そのくらい青鈍色の世界は「怨念」という進化したパワーを持っていた


地球上では植物も動物も厳しい環境に適することができたモノだけが

次の時代に命をつなぐことができる

強くなければ生きられなかった。


地球と似た青鈍色の世界では強さが尊ばれていた。

個体は常に他の個体を意識し、裏切り蹴落とし這い上がり競っている。

弱い個体は潰される。潰されても疑問に思うモノはいない。それが当たり前の世界だから。

ただ「怨念」の炎を燃やし続ける。


地球上には、女王蜂と働き蜂がいる。働き蜂が働き蜂で生まれたことを疑問に思ったり、女王蜂をうらやましいとは思わない。

生れた個体としてそれなりの生き方をするように生命を授かってきたから。


異次元への門へたどり着き門番に注意された一瞬、

指さした青鈍色の世界を振り返り思いが過った


何も思ってはいけない

全て捨て

そして門をくぐれ


異次元の世界は

昆虫が人間の生き方ができないのと同じこと

理解できるものではない

この門を潜ると、今いた世界のモノは何の役にも立たない

全て捨てていけ


私は一片の思いを渡した

未練は消えた


青鈍色の世界から他の世界には行けない

黄色い世界がすぐそこにあったとしても、組み込まれた遺伝子レベルで異なっているから生きられない


地球上では同じでない異質なものは集団では生きにくい。目立つものは叩かれる。


青鈍色の世界のモノは青鈍色の世界に適するよう生まれてくる。

青鈍色の世界からは他の世界には行けないが、他の世界から青鈍色の世界にはいくことができるが、一度青鈍色の世界へ入り込んだら、他の世界には戻れないし行くことはできない。


青鈍色の世界にある「怨念」を一度もってしまうと、それは思考の刻印として個体から消えることが無い。

「怨念」の刻印を押されたモノは、青鈍色の世界でしか生きてはいけない。


地球のダンゴムシは考えない

ダンゴムシの一生に必要なことだけして生きている


青鈍色の世界のモノもその世界を超えた世界のことなど考える必要はない

青鈍色の世界以外には存在しない言葉

「理想」とは無限に広がる幻

「希望」とは比較から生まれる憧れ


一片の思いを手放し

私は異次元の門に入っていく

門番はもう他の個体に話しかけていて私を見ていなかった

ここに来なければ、自分の世界が見えなかったし他の世界の存在も知らなかった

だからそれが何なの?

私は門の中へ一歩前に歩みだした




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異次元の門で くるみ @sarasura

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