第20話 百年に一度の施し



 クオンは意を決したような顔で口を開いた。


「あなたがもし、かの有名な知恵の番人だというのなら、答えていただきたい事がある」


 レストリアでは有名なのか?


 コスモスは悠然とした態度で、耳を傾けてつづけいる。

 何を言われるかなんとなく、察しているかのようだ。


「何かな、迷える子羊さん」


 クオンは、一呼吸。

 深呼吸して気を落ち着けた。


「我が国が進めている秘匿実験、人間のアストラル化による人類救済にはどれくらいの成功率があるのですか?」


 その問いへの答えは勘初入れずもたらされる。


「ゼロ」

「えっ」


 息をのむクオンに対するコスモスは、よどみない。


「聞いておいてそれはないだろう。ちゃんと僕からの返答を受け取り給え、ゼロだよ。ゼ・ロ。それ以上にはならない」


 その言葉に悪意はみじんもない。

 ただ少しの呆れをふくめて、淡々と事実を述べているように見えた。


「そんな、それなら、私達のしてきた事は一体……」


 聞いた当人は顔を俯かせて、肩を小刻みに震わせ始めた。

 怒ってる?

 いや、あれショックを受けて震えてるのか。


 俺達を始末しようとした時と同じ人間とは思えない様子だった。


 落ち込むクオンを置いて、コスモスは俺達の方へと向き直る。


「じゃあ、君達をホームへ送り届けるとしようか。どこかお望みの場所はあるかい?」


 何を言われているのか一瞬分からなくて、戸惑った。


 切り替えの早さについていけなかった。


 ……さっきまでクオンと話してただろ。


 コスモスはクオンのことなんて、もう視界に入ってはいないようだった。


 これにはさすがにキャロも眉をひそめている。


「あ、ああ。けど……」


 ソファーに沈み込んだままのクオンが気になってしまう。


「俺達を送った後、そいつをクレストリアに送り届けてくれねぇか?」

「ちょっと、オルタ。その人は敵だったのよ」


 少しだけほっとしたような表情をしたキャロが反対だと声をだす。

 オルタ自身も若干、そんな思いなのだが、それを正直に言うと怒らせそうだ。


「けど、俺達が言っとかないと、あいつあの様子だと、自分じゃ喋りそうにないし」

「だからって」


 コスモスは肩をすくめてみせる。そして苦笑も。


「お人よしなんだね。そういう所は嫌いじゃないけど、あいにく人に施す善意は百年に一回って決めてるんだ」


 どう反応していいのか分からない言葉だ。


「……冗談だよな?」


 コスモスは、可憐な笑みを浮かべてにっこり。


「試してみるかい?」

「いや、何だかお前怖ぇわ。しょうがねぇ、そいつ連れてくとするか」


 普通の人間ではないと思っていたが、今の言葉を聞いてその思いは強くなった。


 底知れない感覚に少し恐怖する。


「本気? オルタ、冗談じゃないの?」

「しょうがねぇだろ。ここで置いておくのもなんか後味が悪いし。キャロン、お前には悪いけどさ。俺クオンみたいな奴、嫌いになれないんだ」


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