オウセントリック

エリー.ファー

オウセントリック

 金のためなら殺人も厭わない。

 というか。

 金がなくとも人を殺す。

 趣味とかそういうものではないけど、できれば人を殺したいと思っている。

 私は中中に不器用な男でもあるので、殺人という行為が一番最もらしく自分の力を自分で確かめられるのだ。

 ナルシズムというものを確認し、そしてそれに慰められるために必要ということである。

 正義であるとか、悪であるとかそのようなものではない。

 単純な自分自身のための行動。

 悲しさを背負って、殺人という罪に手を染める人間の気持ちが全くと言っていい程理解できない。何故、悲しさというものが必要なのか。

 私は。

 気が付けば手を血で染めてきたというのに。

 女の子に告白した日も。

 女の子に告白してふられた日も。

 自動販売機の下に小銭が入ってしまった日も。

 贔屓の野球チームが勝った日も。

 エレベーターが遅かったため大を漏らしてしまった日も。

 好きな歌手のサインを引っ越しのごたごたでなくしてしまった日も。

 殺人を行った。

 人の命を奪って。なんとなく、奪って。

 それから朝日を見ながら夕日を見ながら人を殺した余韻を楽しんだ。

 このように考えてみると、私は殺人という行為に何か意味を求めているのではなく、そこに付随する煙草に意味を求めていたのではないだろうか。

 つまり。

 煙草を吸う、という余韻のために殺人を犯しているのではないか、という推測である。

 確かに、殺人をしんない日はあるが、煙草を吸わない日などはない。

 ということは。

 殺人ではなく、煙草。

 いや。

 ニコチンに惹かれているのではないか。

 かなり。

 いいところにいっているような気がする。

 美しい人を殺し、美しくない人を殺し、女を殺し、女以外を殺し、ナイフで殺し、ナイフ以外で殺し、自殺にみせかけて殺し、自殺以外に見せかけて殺し。

 ありとあらゆる方法で殺し。

 私は煙草のために殺す。

 この煙のために殺す。

 煙草と共に時間を過ごすために、自分の寿命を犠牲にする。

 政治家を殺すために、ありとあらゆる手段を使い。結果としてその過程で、右目をなくし、左腕は大やけどを負った。

 眼帯をして、義足をして、今は殺人を行っている。

 自分の生き方にここまで食い込むものを作り出す気はなかったのだが、よくよく考えれば、私の人生はそのようなもののおかげでバランスが取れているようなものなのだ。

「ところで。」

 私は言葉を吐いて見せる。

 目の前には女性がいた。

 その女性の身体的状況だが。

 説明はしない。

 その女性は間もなく死ぬ。

 ということだけ伝えておこうと思う。

「何か、飲みたいものはあるかな。」

 私はいつもアタッシュケースを持ち歩いており、その中に酒を少量だがたくさん入れている。即興のカクテルを作り、それを死ぬ直前の相手に振舞うことを趣味としている。

 ということは。

 カクテルを振舞うことが、私が殺人を犯す理由に含まれていると考えることもできる。

 いや。

 もう、よそう。

 ここまでだ。

 私の物語は。

 後は彼女の物語だ。

「何が飲みたいのか、教えてくれるといいんだが。」

 沈黙は。

 マスターにまかせる。

 の合図だと思うことにしている。

「では、オウセントリックを一杯。」

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