細く光年

エリー.ファー

細く光年

 このまま、私がこの宇宙船にいたところで何の変化も起きないだろう。

 なにせ、私しかいないし。

 この宇宙船は間もなく爆発するし。

 テロが起きたであるとか、船自体の整備不良によるものではない。単純に私が、この中古の宇宙船を借りて、その倉庫に爆弾を仕掛けている、ということに過ぎない。

 自殺。

 そう、自殺。

 と言えるのかもしれない。

 いや。

 自殺か、他人から見れば。

 順風満帆な人生ではあると思うのだが、なんとなく死にたくなったのだ。何でもかんでも上手く行きすぎた、というか、何でもかんでも努力で叶えすぎたというか。

 単純に、人の期待に応えすぎたのだと思う。

 そのおかげで立場も上がったし、生きていくには十分な財力も経験値もある。別段、不満がある訳ではない。

 でも、

 でもなのである。

 気が付けば、自分の感情と向き合うことを忘れてしまっていた。

 こんなにも私は、自分のことを知らなかったのか、と思わされたのだ。

 どんな人間とも仲良くなる自信があるのに、どんな人間にも自分が理解されていると心から思えない。

 落胆する。

 自分にも。

 自分以外にも。

 宇宙の中で、体が爆散して、そのまま意識もなくなる。

 そういう夢を見て。

 自殺しようと思った。

 なんでもかんでもうまく行きすぎなのだ。

 私の人生は。

 もう、自殺なのかどうなのか、と考えたので、正直、自殺という行為を今からするということで、言い訳をしたいとは思わないのだが。

 なんというか。

 自殺とは、どうにも回避であるとか、逃走であるとか、あまり良いイメージがない。

 単純に弱者のすることではないか、と思ってしまう。

 私はどちらかと言えば強者だ。いじめもしたし、盗みもしたし、蹴落としたし、馬鹿にしたし、もっと言うのであれば、狙って誰かを不幸にした。

 何の利益も生まれないというのに。

 それが面白かった、ということではない。

 単純に負けたくなかったのである。

 ここで、自分が敗北する、もしくは、した、という経験を積みたくなかったのである。

 勝つことが趣味であって、勝つこと自体で何かを得たいとは到底思えなかったのだ。

 私にはもう。

 何もかもあるように見せかける立ち振る舞いしか残っていなかった。

 揺れる思い。

 私は。

 窓から宇宙を眺める。

 外は美しかった。

 綺麗だった。

 地球は燃えている。

 核爆弾のスイッチを入れてきた甲斐があった。

 こうやって特等席から、地球が崩壊し、人類が滅亡し、命と名の付くものが消えていく様を眺めることができる。

 強者か弱者かということではなく、ただただ、この景色を自分の脳に味合わせることができた、という事実に満足する。

 私は。

 今日という日まで。

 一所懸命頑張った。

 だったら、死ぬ間際になってこんな思いをするのも悪くはないではないか。

 私だって。

 頑張ったのだから。

 最後に、たくさんの命を自分の手で扱ったという陶酔と共に爆散しても。

 それは良いではないか。

 神様も許してくれるに決まっている。

「地球は赤かった。」

 私はとりあえず眠りにつく。

 緊張はしない。

 死ぬことに恐怖して、眠れないということなど考えられない。

 意識のないままに、静かに死ぬ。

 これもまた、わたしだけがなせること。

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