愁いを知らぬ鳥のうた

新吉

第1話 嬉しいを知らぬ鳥のうた

 嬉しい



 この街は一年前、大災害に見舞われた。ハロウィンの10日前だった。それでも人々は仮装して街を練り歩いた。不謹慎だという人もいた。派手な服や飾りを身につけて、カボチャに明かりをつけて。いいや、照明をガンガンに照らして闇を追い払ったのかもしれない。ただただ眠らずに騒いでいたかったのかもしれない。


 今年は僕も仮装をしなくてはいけなくなった。どうしてみんな仮装が好きなのか。違う自分になりたいんだろう。調べてみたら元は悪霊を追い払うために仮装していたそうだ。



「仕事は?」


「驚け、上司命令だ」



 驚いた。そんな遊び心があるとは思わなかった。



「じゃ、鳥かな」


「とりー?どんな?」


「まあハロウィンだから、コウモリ」


「コウモリは鳥じゃないぞ?」



 驚いた。知らなかった。



「ちなみにペンギンは鳥な」


「えー、飛ばないじゃん」


「お前…じゃあニワトリは?」


「鳥、だろ?」


「それはわかるのね」


「飛べないけど跳ね回るし、なんか人間が食べるのに改良して飛べなくなったって前にどっかで見た」


「へー、お前でも覚えてることあるんだ」


「うるせーなあ」



 三歩歩けば忘れる、まあそうだ。臆病もののチキン野郎な僕は、当日はチキンの仮装をすることに決定された。



 最近あった嬉しいことを探してみたけど

 見つからなかった


 だから僕は鳥になる

 空に探しに行くんだ




 こんなに嬉しいことはない

 嬉しいわ、あなたに会えて

 まさか、そんな、ウレシイ


 変わらずにいることなんてできない

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