第276話 俺はみんなでUNOがしたい

 ワンゲーム終わってから、俺のためにも休憩を挟んでもらい、10分ほどしてからもう一度再開することになった。

「そう言えば、こういうのって夜にやるもんじゃないのか?」

 全員に6枚ずつカードを配っていた俺は、ふと中学の時の修学旅行を思い出しながら言った。

 まあ、修学旅行は昼間にやることが詰まってるからなのかもしれないが、俺としてはこういうのは夜に部屋のメンバーでこっそりとやるみたいなイメージがあるのだ。

「まあ、いいじゃないですか。どうせ1時のお昼ご飯まで暇ですし、夜は別の遊びを用意してますから」

 結城が手札を確認しながら適当風にそう言うが、雰囲気って大事だと思うんだよな。確かに暇ではあるけど。

「てか、別の遊びってなんだよ」

 結城があまりにサラッと流すから、俺もスルーしてしまうところだった。夜の遊びと聞くと、あまりいいイメージは湧かないんだが……。

「関ヶ谷先輩、それは秘密です!」

 魅音が口の前でバツを作って首を横に振る。こう言うってことは、魅音も内容を知ってるのか。

 様子を見る限りは神代さんと御手洗さんは知らないっぽいし、なんとなくだが予想はついた。多分、どう考えても冬にやるもんじゃないやつだな。

 オカ研が持ってくる遊びと言ったら、UNOかそれくらいなもんだろうし。


「ユアちゃん、もっと勝負っぽくしたいな〜♪」

 カードを配り終わったところで、神代さんがそんなことを言い出した。

「勝負っぽくっていうと、例えばどんな?」

 俺が聞き返すと、彼女は少し考えた末に「最下位の人には死んでもらうとか〜?」と答えた。デスゲームじゃねぇか。

「冗談冗談♪マイケル・ジョーダンだよ〜♪」

 神代さんはそう言ってケラケラと笑うが、冗談じゃなかったら今すぐにこの部屋から退出してもらってるところだ。

「でも、確かに何か勝ったご褒美がある方が楽しそうですよね!」

 そんなサイコ神代をフォローするように、御手洗さんが会話に入ってくる。

「勝ったら何か得するとなると、もっと盛り上がると思うんです!」

 御手洗さんの言葉に、その場にいた全員が頷いた。

 以前に早苗も勝った人への褒美を望んでいたし、最近の女子高生はそういうのが好きなのかもしれない。

 それなら、プレイヤーのニーズに合わせて報酬制度を付け加えるのも悪くないな。

「なら、『一位の人は関ヶ谷さんにひとつお願いを聞いてもらえる』に1票!」

 突然結城が宣誓するかのようにそう口にした。

「いや、なんでだよ」

 もちろん俺も反抗する。他の誰が勝っても俺しか被害がないなんて、そんなの不公平すぎるし。

「だって、わっちらは女の子ですよ?関ヶ谷さんは男の子。負けた責任は男子が取るべきでしょう!」

「な、なんて暴論だ……」

 これが世に言う不平等社会ってやつか。なかなかに厳しい世界だぜ。

「未来乃もなんか言ってやれよ」

 未来乃こと千鶴だって、隠してはいるが本当は男だ。なら、彼もこの現状に何か物申したいはず。そう思って話を振ったのだが……。

「私もその案に1票!」

 こいつ、全国の男子を裏切りやがった!あっさりと強い側について、俺を見捨てやがったよ!

「ユアちゃんもそれがいいと思いま〜す♪」

「関ヶ谷さんには悪いですけど、私、UNO弱いので……」

 神代さんと御手洗さんも結城陣営に着き、既に過半数の票は確保されてしまった。だが、まだ希望はある。

「……魅音は残ってくれるよな?」

 彼女さえ残ってくれれば、まだ挽回の余地はあると見ている。結城だって可愛い後輩と敵対するのは嫌だろうし。

 俺は精一杯願いを込めて魅音を見つめる。だが、やはり人間とは無慈悲な生き物で、どれだけ願っても強いものの方へと流れて行ってしまう。

「わ、私……関ヶ谷先輩にお願いしたいことがあるので……ご、ごめんなさい!」

 魅音はそう言って頭を下げると、トコトコと結城の背中に隠れてしまった。魅音のお願いならいつでも聞いてやるってのに。

「魅音……お前もか……」

 きっと、ブルータスに裏切られた時のカエサルもこんな気持ちだったんだろう。孤独で、力の前に屈するしか無かった……そんな気持ちだ。

「じゃあ、5対1で決定ですね?関ヶ谷さん」

「あ、ああ……仕方ないな……」

 こういう時の女子の団結力って、凄まじいよな。いや、1人女子じゃないのも混じってるけど。



 ご褒美も決まったところで、フィールドを俺の腹の上から机に移動させた。

「じゃあ、俺からでいいよな。そもそも不利だし」

 そこは絶対に譲れない。枚数がゼロになれば勝ちのカードゲームは、1番手が強いのがお決まりなのだ。それはUNOも例外ではない。

「まあ、そこが妥協点ですね」

「私はそれでいいと思います!」

「ユアちゃんも賛成〜♪」

 みんなの了解を得てから、俺は山札の1番上からカードを取って机の中央に置いた。

「な、なんだと……?」

 ひっくり返して出てきたのは『ドロー2』、つまり山札からカードを2枚引かされるやつだ。

「あ、でも手札に『ドロー2』があるから……」

「ストップストップ!」

 カードを重ねようとした俺を結城が制止する。

「公式のルールでは、ドロー系カードの重ねは禁止されてます。今回はOKにしますか?」

 そう言えば、そんな話を聞いたことがあるな。大抵はローカルルールで重ねor複数枚出しはOKとされているが、公式の大会とかだと出来ないんだよな。

「まあ、重ねれる方が盛り上がるし、いいんじゃないか?」

 俺がそう言うと、未来乃が眉をひそめた。

「でも、それだと碧斗がその『ドロー2』を回避して、隣の御手洗さんが4枚引くことになるんでしょ?」

「あー、ドロー系を持っていないと確かにそうなるな」

 言うまでもなく、ドロー系の被害を受けることはつまり敗北を意味する。他のプレイヤーが手こずれば追いつくことも可能だが、元の手札が6枚なこともあって、4枚引くともなると難しいだろう。

 でも、俺としてはそれがルールだからとしか言いようがないのだ。

「ユアちゃん、リコちゃん可哀想だと思うな〜♪」

「私も4枚は少しやりすぎかと……」

「そうだよね」

 また女子が結託している。そして俺に2枚を引かせようとしている。俺が負ければ、俺以外の誰かは確実に俺へのお願いを行使できる。

 つまり、彼女らは自分が勝つために、一番勝たせてはいけない俺を潰しにかかっているわけだ。女子というのは、見かけによらず恐ろしい生き物だな……。

 そんなことを思いながら、俺は隣の御手洗さんへと視線を向ける。彼女は手札を見つめていたが、こちらの視線に気がつくと顔を上げて、優しさの滲む曖昧な表情を見せた。

「関ヶ谷さん、私は大丈夫ですから。どうぞ、重ねちゃってください……」

「で、でも……」

 正直、UNOはこんなにも精神的なダメージを受ける遊びじゃないと思っている。だが、褒美がかかっている以上はみんな燃えているのだ。

 そんな中、初手から4枚というハンデを背負うことになるのは、『私、UNO弱いので……』と言っていた彼女にとって拷問でしかない。

「関ヶ谷さん、私のことは気にせずに出してください。気を遣われて手加減される方が、私にとって辛いので……」

「そこまで言うなら……ごめんな」

 少しでも俺の負担を軽くしようと、自分を犠牲にしてまでそう言ってくれる御手洗さん。俺はそんな彼女に申し訳なく思いながらも、『ドロー2』のカードを重ねて置いた。

「では、私も『ドロー2』で♪」

「…………え?」

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