デスゲームリレーの選定者たち

ちびまるフォイ

あなたもやっぱり選びたい?

まるで知らないチャットルームがアプリの中にあった。


[ トーク ]

デスゲームリレー [1]


「なにこれ? こんなのいつ入ったんだろう」


削除しようかとも思ったがなにか思い出せるかもとルームに入った。


『ようこそ、あなたは次のデスゲームリレーのバトンを受け取りました。

 これからあなたがデスゲームへの参加者を募ってください』


「は? え?」


『安心してください。あなたはデスゲームについて考える必要はありません。

 デスゲームはすべてこちらで管理運営しますので、参加者だけを決めてください。

 あ、もちろん。ご自分は参加者に含めなくていいですよ』


「あの、デスゲームって……どうして私が?」


『期限内にデスゲーム参加者を決められなかった場合は、

 あなたの親族および親交の深い人間が自動的に参加者となります』


「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなこと勝手に!」


トークルームにはタイマーが表示されて無慈悲に残り時間を刻み始める。

デスゲームへの参加者には相手の連絡先IDを勝手に指定すればいい。

本人に気づかれることなく、デスゲームへの参加を決めることはできる。


「どうしてこんなこと私が……」


冗談かとも思ったが、冗談じゃなかった場合を考えると怖くなる。

自分の友達が、大切な家族が私がもたついたせいで犠牲になるくらいならいっそ……。


私は掲示板やSNSで「友達募集」などと晒されているIDや

テレビのニュースなどで見た悪人の特定されたアカウントを登録した。



< 10名の参加登録が完了しました >



トークルームにはクラッカーと紙吹雪が舞う。


「私は悪くないもん……私は悪くないもん……」


『参加協力ありがとうございます。デスゲームの様子をお届けします』


トークルームには動画が添付されていた。

[犠牲者:袴田宗次郎]


再生ボタンを押すとデスゲームの罰ゲームとして、

参加者から体中に釘を打ち込まれている映像が流れた。


あまりの恐怖にスマホを投げ捨ててしまって画面はもう見れない。

一瞬だけ見えた大人の男性が死を目前にした恐怖の表情が離れない。


「私……だって……お父さんやお母さんが……こんなのに参加してほしくなかったんだもん……」


布団をかぶって罪の意識から逃れるため必死に忘れようと努めた。


トークルームは削除することも非表示にすることもできず、

私の知らないところで容赦なく行われているデスゲームの状況を配信してくる。


「もういい加減にしてよ! 私はこんなの見たくない!!」


『なにをおっしゃっているんですか。あながた選んだ参加者でしょう。

 最後まで彼らの命の灯火を見守ってこそ、あなたの役目です』


血で血を洗うデスゲームが終了すると最後に残ったのは

私が適当に見つけて登録したIDの人だった。


体中が血まみれの傷だらけで、顔からはSNSで見せていた笑顔とは程遠い

感情という感情が憎悪で上書きされたように冷たい顔だった。


『デスゲームの優勝者はこちらの方です。予想は当たりましたか?

 デスゲームはお楽しみいただけましたか?』


「ふざけないで! 私は最初からこんなこと望んでない!

 こんなことするなんて……ひどすぎる!」


『このデスゲームの様子を楽しみにしている一定層はいるんですよ』


「そんな趣味の悪い道楽に巻き込まないで!」


『なにを他人事のように言っているんですか。あなたもキャストなんですよ』

「え?」


『次の参加者を選ぶあなたの様子もデスゲームの余興の一部として配信されているんです。

 さて、では最後の仕事が残っています』


「最後の……仕事?」


『次のデスゲーム任命役をあなたが決めるんです。

 あなたが次に誰にその参加者を決める権限を渡すのか。

 これがこのゲームの最後のエピローグです』


「いい加減にしてよ!!」


スマホを壁に投げると画面にヒビが入りそれきり電源は入らなくなった。

もうこんな形で人の死に関わりたくない。


「私が……私が次の専任者を選ばなければ全部終わるんだ……」


布団をかぶって震えるしかできなかった。

スマホも壊れているのでもう見ることもない。


翌日、疲れた顔で学校へ向かうと、電話を持ったサラリーマンが近寄ってきた。


「な、なんですか?」


「あんたに電話だ」

「え?」


「早く出ろよ。こっちは大事な取引があるんだから!」


「も、もしもし……?」


『次の選定者の確定まで 残り1日 です』


驚いて電話を落としてしまった。

サラリーマンは壊れた電話にかけよりながら文句を言っていたがもう聞こえない。


もしこのまま次の人を選ばなければ今度はどうなるのか。


重い足取りで教室に入るとクラスメートはみんなスマホに夢中だった。


「ほらここ。やばいよね」

「絶対生き残ると思ってたのに」

「超意外だった。次はどんな人集まるんだろうね」


「なに見てるの……?」


「あ! デスゲーム見たよ! 今大会の専任者ってあんたなんでしょ?」

「すごい! どうやって選ばれたの!? 教えて!?」

「どういう基準で参加者選んだの? ねぇねぇ!」


クラスメートは駆け寄ると、ファンのように取り囲んだ。

その中には私の大切な友達も入っていた。


「ひ、人が死んでるんだよ……!?」


「ねえ、今もこれ収録されてるの?」

「次の参加者は私に選ばせてよ。お願い!」

「殺したい人がいるの! 友達でしょ!?」


「本当に人が死んでるんだよ! なんでそんなに……」


「なんで譲ってくれないの? 独占するつもり!? ずるい!」

「私に譲ってくれなかったら、次の専任者に頼んで、あんたを参加者に入れるから!」

「私が選ばれてもあなたはけして選ばないから。ねぇ、だから譲って?」


私を囲む人たちはもう人の目をしていなかった。


「私は……私は誰にも譲らない……!!」


人垣をつっきってただ走った。

私が守りたかった人間はこんなだったなんて思いたくなかった。


「みんな……みんなおかしくなってるだけ……。

 私がこのまま誰にも譲らなければ……っ」


変わりかけの横断歩道に入った瞬間だった。

目の前に迫った車が私を跳ね飛ばし、コンクリートに叩きつけられた。


「あ……ああ……」


地面に広がる赤い海をただ見ながら意識が遠のくのを感じた。





< 選定者の死亡につき、選定者の家族および親しい人が選定者になります。 >




通知を受け取った人たちは歓喜し、彼女の死を盛大に弔った。

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