バレバレですエルフさん~同級生は正体を隠した(つもりの)異世界人~
千原良継
第一章 謎の転校生(エルフでした)
いきなりバレるエルフさん
エルフの彼女が、僕のクラスに転校してきたのは、学期初めでもない中途半端な時期だった。
事前に担任からも近々転校生が来るぞーという話もなく、いきなり彼女は転校してきた。
しかも、やって来たのは三限目からだった。
「え、え~と、エルフです! あ、じゃない、です! 名前……名前……えと、えと、江藤……そう! 江藤エルフです! あ、今のなし! 江藤エルです! 十七歳です! えへへ、十七歳………私、十七歳……」
そんな無茶苦茶怪しい自己紹介をしたのは、照れながら両頬を手で押さえる美少女で。
クラスのみんなが思ったのは、偶然にも(いや必然だ)同じだった。
(……エルフだ)
みんなの視線を集めていたのは、彼女が隠し忘れたのであろうピコピコ動く尖った長耳だった。
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
人間はあまりにも突飛な状況に出会うと、命の危険がないのであれば、とりあえず突っ込みを我慢してスルーするのだろうか。
僕を含めクラス全員誰もが、彼女――江藤エル、という絶対偽名だろ、という名前のエルフの自己紹介が終わると、パチパチと暖かく迎える拍手をした。
「よ、よろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げる江藤さん。なかなか日本語が達者である。
そんな自己紹介が終わると、横にいた担任がみんなを見渡した。
「じゃあ、席についてもらう前に、何か軽く質問でもあるか? どこから来たのーとか、好きな食べ物はーとか」
「……」
思わず全員が「マジか」という目で担任を凝視する。空気を読めないダメ教師、という認識はあったが、マジなのか。
聞いちゃいますか、それを。
うっかり、「異世界からです! あ、間違った!」とか言われたらどうするんだ。
まあ、しかし、あれだ。
本当に彼女がエルフなのかは、まだ分からないだろう。耳が尖ってピコピコ動いているだけなのだ。耳の形が遺伝子的に特殊な可能性もある。耳をピクピク動かせる特技を持っている人もいるのだ。
ここは、とりあえず無難な質問でお茶を濁そう。
そう思って、口を開こうとしたその時だった。
「……ああああああ!」
みんなの視線が、自分の顔ではなくその横にズレていたのに気づいた彼女が、何気なくその耳を触り……声を上げた。
どうやら視線の意味を気づいたらしい。
「わ、忘れちゃってた……隠してない!」
小さな声で呟いたつもりなのかもしれないけど、意外に彼女の声はデカかった。
「と、とにかく……か、隠さなきゃ……」
キョロキョロしながら、制服のポケットから何かを取り出した。
金色の小枝?
そうして、彼女は教壇の影に隠れるように座り込み、何かを呟いた。
ピカーッと彼女の身体が発光した。眩しい。突然の光に、みんな慌てて目を閉じる。
光がおさまって目を開ける。そこにいたのは、教壇の影から立ち上がっていた江藤エル、だった。横顔で、丸い普通の耳をドヤ顔で見せつけていた。
「……」
光ったじゃん。魔法じゃん。やっぱり、エルフじゃん。
「あー……質問は……いいかな」
担任が誰にかけるでもなく呟く。
そして、彼女の座席の位置が告げられる。何の因果か僕の隣だ。マジか。とりあえず、挨拶しとく。
「えーと……
「江藤エルフです! よろしくね、弓塚君!」
思わず見とれてしまうほどの笑顔だ。エルフって言ってるけど。まあ、あえては突っ込むまい。
椅子に座った江藤さんは、ホッとしたように息をついた。
「良かった~……バレなくて……」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
どうなってんだ、このエルフの頭は。天然か。天然なのか。
小声のつもりなんだろうが、周りにしっかり聞こえてるからね? 君の前の席の女子なんか肩振るわせて笑いを堪えてるからね?
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
「……よ、よしっ……これからも、バレないように頑張ろう…!」
ギュッと両こぶしを可愛く握って、天井を見つめるエルフが一人。
この瞬間、クラス全員の意志が一つに統一された。
(気づいてるのは秘密にしておこう……)
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