第87話 四人で昼ごはん

「へー、富永くんバイトしてるんだ。で、富永くんって誰?」


 焼きそばを呑み込んだ楓は言った。


「一年の頃同じクラスだったんだ。バレーボール大会で同じ班になって、ちょこっと話したくらいの関係性かな」

「そうなんだー」


 あまり興味がなさそうに、楓は返事をした。楓とは一度もクラスが同じになったことがないので、この程度の反応が普通だろう。


「うちの学校でバイトしてる子って珍しいよね」


 水をゴクリと飲んだ須藤は言った。


「まあな。一応進学校ってことになってるもんな。俺ら三人みたいに、進学危うい組もいるけど」


 ルーを白いご飯にかけながら、神崎は言った。


「翔太は進級も危ういんだから、一緒にしないでくれる?」

「千草も大して変わんねえだろ」


 また痴話喧嘩を始めそうだ。二人でいる時も、いつもこうなのかな? というか、進学危うい組にしれっと俺を混ぜないで欲しい。最近、勉強していて順調に伸びているのだから。


「そういや、天野はこの前赤点いくつとったんだ?」


 来た! 俺は前回のテストの結果を楓以外に伝えていなかった。神崎がヤバい結果だということはわかっていたし、自分の点数をひけらかすのもどうかと思ったので、言っていなかった。

 訊かれれば、答えるのが自然な流れだ。俺はこれくらい普通じゃない? 感を出して、神崎たちに点数を伝えた。


「......裏切り者」


 神崎からそのセリフを久しぶりに聞いた。須藤もそれに大きく頷いている。


「神崎の知らないところで、勉強してたからね」

「そういうことはちゃんと言えよな。お前だけ抜け駆けすんのはズルいぞ」

「誘ったら、勉強したの?」

「ノー」


 きっと神崎を誘ったとしても、勉強して帰ろうぜ! みたいな風にはならなかったと思う。誘うだけ無駄だ。俺の喉を無意味に使うくらいなら、最初から誘わない方がマシだろう。


「天野くん見習って、勉強してよねー。私バカなんだから、しっかりして欲しー」

「そうだよな」

「ふんっ」

 

 須藤は自分でバカだと言っておきながら、同調した神崎に鉄槌を下していた。悶える神崎をしりめに、須藤が口を開いた。


「楓ちゃんはいつも通り何でしょ?」

「まあ、うん」


 遠慮してなのか、順位や点数は言わなかったが、前回もトップの成績だったことを聞いていた。ハイスペックすぎて、怖い。そんな立派な点数をとるために、きちんと努力をしていることも知っているので、嫉妬なんかは起こらないけど。とるべくしてとった、といった感じだ。


「すごいなあ。楓ちゃんは志望校とか決めてるの?」

「一応、何校かはいきたいなーってところはあるかな」


 初耳だ。最近、進路の話をしていなかったので、知らなかった。気になるな......。


「へー、ど......」

「勉強の話やめようぜ。今日くらい勉強のこと忘れて、パーっと遊ぼうぜ」


 須藤の話を遮り、神崎が言った。おい! せっかくあと少しで楓の志望校が聞けそうだったのに!

 また今度聞けば良い話だけれど、今、気になるのだ。俺は話を中断させた神崎を睨んでおいた。


「え、何だよ」

「別にー」


 神崎は不思議そうに首を傾げている。絶対今度楓に訊こう。


 食べ終えた俺たちは、すぐにトレーを返却し、またプールに戻ろうとした。あまり長居しなかったのは、早く遊びたいという気持ちもあったけれど、未だ満席のため待っている人もいたから。何も食べていないのに、喋るためだけに座っているのは良いようには思われないだろう。

 

 次はどのプールに入るかという話になった。


「ウォータースライダー乗りたい!」


 楓が目をキラキラさせて言った。ここのプールのおそらく目玉だし、俺も乗っておきたい。


「私も乗りたい!」

「俺も」

「決まりだな。とりあえず、並ぶか」

 

 神崎を先頭に、列の最後尾に俺たちは向かった。

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