第69話 四人で食べ歩き

「あふっ。んまっ」

「サイッコーだね!」


 女子二人が熱々のコロッケを食べながらキャッキャッしてる。


「なんか食べ歩きってさらに美味しく感じるよな」

「わかる」


 外はカリッと揚がっていて、中はホクホクだ。きっとどこで食べても美味しいことには変わりないと思うけど、こうして誰かと一緒に食べ歩きしてると、より一層美味しく感じる。不思議だ。


「みたらし!」


 須藤が大きく目を見開いて、みたらし団子の店を指差した。食べたい、ということだろう。


「ねえねえ、じゃんけんで負けた人が全員に奢るってのはどう?」


 本当楓さんそういうの好きだよね。自分から言い出して、負けること多いのに。

 あまりこういうことはしない方が良いのはわかってる。わかってはいるが、敗北を恐れないその姿勢は素晴らしいと思う。なので、その心意気に免じて、その勝負受けて立とう。


「いいよ」

「天野もやる気かよ。まあ、いいけど」

「ちーちゃんはやめとく?」

「ううん。私もやる。翔太のお金でみたらし食べたいしね」


 神崎は俄然やる気が出たご様子だ。俺は一応お前のことを応援しとくぞ。


「それじゃあ、いくよー。じゃんけんぽんっ」


 楓の掛け声で、始まった。


 えっと、楓がグーで、それ以外がパーか。一発目で勝負がついた。

 どうして、こんなに弱いんだ......。運にも見放されているようだ。日頃の行い、かな。


「うぇ......仕組んだ?」

「楓が言い出したんだから、そんな時間なかった。四人分よろしく」


 ぷくっと頰を膨らましても救いの手を差し伸べないよ。これは勝負なんだから。心を鬼にするんだ。


「私も一緒に払おうか?」

「いいよいいよ。私が負けたんだから、全員分買ってくるよ。全員分......ね」


 そう言って、楓は目を細め、こっちを見てくる。視線に気づかないフリをするんだ。フリをするのは得意なはずだ!

 俺は身体を少し回転させ、視界から楓の存在を消した。これで、大丈夫だ。


「楓ちゃん、やっぱり私が一緒に払うよ」


 ん? なんか、くすんっ、という声が聞こえるな。鼻をすする音だ。もしかして、泣いちゃった? 俺、泣かせちゃった? 俺が悪いの? 

 そんなことで楓が泣くはずない。嘘泣きだ。演技だ、演技。


 さっきより、音が大きい。ひっく、とか言っちゃってる。演技にしては、上手いな......ガチなやつか? 確認するためには、振り返らねばならない。もし、泣いているとすれば、俺はその姿を目に焼き付けることになる。それはあまり見たいと思える光景ではない。


 俺は女の子を泣かせるという大罪を犯したのか......多分、そんなはずはない。演技だろう、そうわかっていても、言うことにした。


「俺が払うよ」

「本当!? やっさしー」

「良かったね。楓ちゃん! さすが楓ちゃんのことを世界で一番愛してる天野くん!」


 俺が言った瞬間、歓喜を含んだ声が聞こえた。

 あと、須藤がなんか言ってるなぁ......。


「お前......甘いな」

「ぐっ」


 神崎にそう言われ、肩にポンと手を置かれた。


 ああ、四人分のみたらし団子か......俺も泣いちゃうよ? 俺は絶対賭けごとはしないと誓った。

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