第49話 南楓と下校(二年生ver.)
「全員同じクラスで良かったよなあ......」
帰り道、楓に話しかけたとも取れるし、ただの独り言とも取れる言い方をした。反応がなくても、特に気にしない。
「本当それだよ。まあ、悟が一人他のクラスだったら、それはそれで面白かったけどね」
彼女は反応してくれた。
クスクス笑いながら言うけれど、笑い話にできるのははじめのうちだけだろう。情けない話だが、上手くやっていける自信がない。神崎たちなら一人だけ別のクラスになったとしても、すぐに馴染むことができるだろう。
「クラス分けってどうやって決めてるんだろうね?」
「さあ? 仲がいい人を固めるってのは聞いたりするよね。本当かどうか知らないけど」
きっと学力や運動神経も考慮されているのだろう。クラス間での差があまり出ないように。体育祭はクラス対抗でやるわけだし。
「そうだとしたら、私たち仲良しに見えてたのかな?」
「先生の前で仲良く喋ってた記憶はないから、こういうことじゃない? 俺と神崎が仲がいいだろ。そんで、神崎と須藤も当然付き合ってんだから、仲良く映ってたはず。須藤と楓が仲がいいことを知った先生は、ここもくっつける。はじめから俺と楓を同じクラスにしようとしたわけではないんじゃないかな」
これはクラス替えの決め方が、交友関係が基盤となっている場合の話なので、当たっている確率は10%もないだろう。
「じゃあ、もっと先生へのアピールが必要だね!」
「いや、先生にアピールしてどうすんだ。先生から告白されんの?」
「今のところはないね」
大問題なので、今だけでなく、これから先もそういったことがないように祈る。
「でも、私一年の時一番話してた咲良たちと離れたよ」
ということは、仲の良さはあまり考慮されていないということか。さっきの話は的外れだったようだ。
「じゃあ、別に決める基準があるんだろうね」
「悟と神崎くんは意図的に同じクラスにされてそうだけどね」
「どうして?」
「だって、悟が神崎くん以外と話しているところ見たことないし。一人ぼっちになると思われてそうだから」
何も言い返せない。
確かに、俺は神崎がいない休憩時間は、スマホをいじって過ごすか机に突っ伏して寝る以外に選択肢がなく、一人で基本的には過ごしていた。そんな学校生活を変えるため、二年生からはもっと積極的に話すと決めたんだ。これからだ、これから。
そうだ、今日はあいつとも話したではないか。
「今日は宇都宮と喋ったよ。ちょっとだけ」
「仲良さそうに喋ってるところがあんまり想像できないけど、どんなこと話したの?」
「側から見れば、仲が良さそうとは捉えられなかっただろうな。文系にした理由とか訊いてた」
「えー、意外だ。友達増えたなら良かったじゃん!」
友達と言って良いのだろうか? 俺はそんな誰ともフレンドリーに接することはできないし、どうしてもまだ壁がある気がする。
「友達というか、話し相手というか。退屈はしなそうで良かったよ」
仲良くなり始めた頃に席替えがあるんだよなあ、きっと。そう考えると、積極的に周りの席の人たちとコミュニケーションを取っても、仕方がないのか? いやいや、そんな考えであっては、いつまでたっても現状は変わらない。俺自身の意識改革しないと。
「ねえねえ、今度どっか行かない?」
「どっかってどこ?」
「それはまだ決めてないけどさー、悟の奢りでご飯食べたりしようよ。奢りでっ」
図々しい態度で払うのが当然でしょ? みたいなスタンスで言われると、きっと気分が萎えてしまうのだが、楓のような子供みたいな笑顔で言われると、何かを買ってあげたくなるような感覚になって、「うん」と即答しそうになる。
「やった。じゃあ、本屋とかも行こうよ。面白そうな少女漫画を一緒に探そうではないか」
言葉を発したわけではなかったが、頭が勝手に動いていたのか、同意したことになってしまった。彼女が食べる量なんて高が知れているし、別に良いんだけど。
それに、男一人では行きづらい少女漫画コーナーに連れて行ってもらえるのはありがたい。楓から借りて読んで以来、ハマり、趣味と呼んでも良いレベルにまでなっていた。楓以外に知られていないことだ。神崎に言えば、「似合わねー」とか言われそうなので、絶対にバレないように細心の注意を払う必要がある。
「休みの日に行くか。俺は基本的にフリーだから、空いてる日また教えて」
「了解!」
話していると、あっという間に公園に着いた。
「じゃあ、また」
「また明日ねー」
それぞれの帰路につこうとした時、彼女が何かを思い出したかのように振り返り、「デートプランは私に任せて」と言って、親指を立てるジェスチャーをし、帰っていった。
二人で行くのだから、『デート』という表現は間違っていない。何もおかしくないのだけど、『デート』という単語を頭の中でリピートしながら、我が家を目指すことになった。
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