第39話 天野と少女漫画

 昨日、公立入試が終わった。

 入試のため昨日は学校が休みとなり、家でぼーっと過ごす予定だったけど、青葉ちゃんの受験のことが気になり、あまり休めなかった。昨夜、楓から『手応えはあるっぽい!!』というメッセージが届いていたので、少し安心した。それでも、まだ合格を勝ち取ったわけではないので、青葉ちゃんはもちろん、楓も不安だろう。俺も不安。


 出願状況を見ると、不合格になる人数は八人。

 数百人受験するので、総合点でその中の下位八人に入らなければ良いのだ。たった八人かもしれないけれど、確実に八人はうちの高校に合格することができないのだ。

 青葉ちゃんがその中に入る可能性だって十分にある。内申では生徒会長をやっていたことくらいでしかアピールはできないそうなので、当日の試験次第だ。


 滑り止めで受けた私立高校には無事合格していたので、多少は自信がついたのではないだろうか。


 公立高校の合格発表は一週間後。発表当日まで気が抜けない。受験番号が貼り出されるように、今は祈るしかなかった。


 楓情報によると、青葉ちゃんは受験から解放された反動で昨夜から漫画を読んだり、ドラマを観たり、とエンジョイしてるらしい。さらに、今日は友達と映画を観に行くらしい。不安すぎて何もできない、ということはないようだ。当人でもないのに、俺は心配しすぎなのだろうか。


 昨年の合格発表までの期間を思い返してみると、そこまで緊張感を保ち続けることなく、合格発表日を迎えることができた気がする。やりきったという気持ちが大きくて、不安に駆られることはあまりなかった。あれだけ勉強して落ちたら仕方ない、と思っていた。青葉ちゃんも今はそういう気持ちなのだろうか。


 受験のことはあまり考えないようにしよう。何かして気を紛らわせることにする。さて、何をしよう。


 楓から借りていた少女漫画でも読んでみるか。数ヶ月借りっぱなしだ。そろそろ読まないと、漫画がかわいそうだ。

 楓から返すように催促されることはなかったので、後回しになっていた。男が楽しめるものなのか疑問で、中々読む気になれなかったのだ。


 何でも食わず嫌いはいけない。

 立ち上がって、本棚の前まで行く。本棚には立てられておらず、棚の隣に置かれた袋の中で漫画は眠っている。楓の家から借りてきてからずっと放置していた。


 漫画を一冊手に取って、俺は読み始めた。



「......虚無感」


 読み始めた頃はまだ日が高かったのに、もう外は真っ暗だ。

 読み始めたら止まらなかった。一巻で結構面白いな、と感じ、二巻を読み始めた。二巻を読了したあたりから、その漫画にしか俺の意識は向いてなかった。その後、続きが気になって最終巻までどんどん読み進めてしまった。


 色々あったけど、最後は二人が結ばれて、本当に良かった。泣きそうだ。主人公の秋人が勇気を振り絞り、ヒロインの美春に想いを告げるシーンは、秋人の成長が垣間見えて、心揺さぶられた。成長ぶりを見ていると、俺も見習う部分が多々あることに気づいた。

 少女漫画を読んだだけで、女心が少しわかった気になってしまう。


 今すぐにでも楓と語り合いたい、と思ったけど、読んでいる最中、思い出したホワイトデーのことについて考えなければならない。


 秋人が美春から貰ったチョコのお返しに悩む姿は共感でき、頷きながら読んでしまった。俺もお返しを考えないと。ポッキーを貰ったのでお返しがあった方が良いだろう。昔みたいにお返しを要求されるようなことはないだろうけど、一応ね。


 あと三日後にホワイトデーがやってくる。

 こんな時期に渡されても楓としては困るかな。うちの高校の合格発表後に渡すか、十四日に渡すかはまだ考えていないけど、用意はしておこう。


 でも、何を渡せば良いんだろう? 誕プレを決める時のように手伝ってくれる義理はないけれど、あいつに相談してみよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る