第58回Twitter300字ss「夢」

草群 鶏

満月

はて、これはどうしたことだろう。

うちの床に狼が寝ている。薄明かりに浮かび上がる灰色の毛並み、三角の耳に長い鼻面、寝ぼけた頭でもわかる。いや、わからないけど。ふかふかだなあ。

「帰れないから泊めてくれ」と連絡がきたのは数時間前、終電には早いし人を呼べる部屋ではないし、そもそも男の人を泊めるのは。さんざん渋ったのはむしろ自分へのブレーキだ。ばかみたいにどきどきしたけれど、現れた彼は言葉少なく、水を少し飲んで眠ってしまった。規則正しく上下する上掛けが、憎いような愛しいような。でも、ぐっすり眠れているならよかった。

―――これが夢で、私も獣なら、触れても許されるかしら。

小さな部屋を、ただ月だけが見ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る