ふみとわし

鷹山雲路

第1話 八百グラム

 こないだスーパーの肉売り場で、一キログラムの豚のブロック肉が売っとった。

 一キログラムなんか食えるか。

 思て、さっさと次行きゃええだけのとこを、わし、

「ふみより重いがな」

 言うて、思わず手にとってもうた。


 ほんで、

「おお、ほんまに重いで」

 言うてしもたがな。


 ふみ、八百グラムしかあれへん。


 グラムや、グラム。キロとちゃうねんで。

 ちゃんと量ろう思たら、もう台所の秤しかあれへん。


 何やねん、その軽さ。


 わし、改めて何ちゅうか、感慨深いっちゅうか、変な気持ちっちゅうか、妙に感心してもうたっちゅうか。


 こんなんで生きてんねんなぁ。


 ちっこいし、ほっそいし。




「アカンアカンアカン、降りぃ!」




 せやから、こんな軽々カーテン登れんねん。

 て、言うてる場合とちゃう。首根っこつかんでんのに放しよらへん、構わずよじ登りよる。わしの力までかかって余計に生地の糸が伸びるがな。ちゅうか、あまりにもちっこぉて、細ぉて、壊れてまいそうで、もう手ぇ放すしかないがな! わしが!




「あーあー」


 居間のカーテン、嫁はんが気に入ってうたやっちゃのになぁ。


「あいつ生きとったらカンカンやど、お前」




 にゃー。




 誇らしげに足踏ん張って、レールの上のでっかいホコリ、わしの顔に落としてくれよった。

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