ジゼルの第二幕


 さて、私たちの踊り子一座の名前をつけなければなりません。


 教団領に入るにあたり、名前にあるメッセージを込めました。

 この名前を聞けば、少なくともこの人はコンタクトを取ってくるはずです。


 一座の名前は『踊り子セリム一座』、コンタクトを取ってくる人はピエールとアンリエッタ。

 私の信用する騎士とその妻です。


 踊り子セリム一座は次のメンバーです。


 座長はニコル


 踊り子は


 アテネ

 サリー

 小雪

 私


 警備担当と黒子 ビクトリア

 経理担当と照明 ダフネ

 総務担当 アナスタシア


 雑務 マリー、アリス


 ニコルさんを団長にしましたので、一座の運営、交渉は大丈夫と思います。

 なんたってジャバ王国のアポロ執政を、お尻の下に敷きかけている影の実力者、力量に疑う余地はありません。

 また唯一、私に秋波を送らない貴重な人材です。


「ニコルさん、このたびは団長を引き受けていただき、ありがとうございます」

「私ともども、皆をよろしくお願いします」

 と、頭を下げて感謝を表します。


 すると、

「イシュタル様も大変ですね、皆さんを伴っての今回のお仕事、色々とありましょう」

「夜のことは、イシュタル様にご負担がかからぬように、私が上手く捌けと、アポロにも云われております」


「なにせ皆様、イシュタル様、いのちではありますが、夜のこととなると狼ですから、まぁお気持ちは痛いほど分かります」


「私もアポロに慰めてもらっていますが、イシュタル様の御前にこうしていると、初めて出会ったときのときめきを思い出しますもの」


「ところでマリーさんはどうされますか、マリーさんもサリーさんの妹、イシュタル様にあこがれているのは、はっきりしています」


「マリーさんは、平凡で幸せな生活を、送って欲しいと考えています」

「可哀そうなマリー……」

 ニコルさん、そんな云い方は止めてください、私が人でなしに聞こえて仕方がありません。


 私たちはジャバ王国の出身、イシュタル女王の贔屓に預かっている一座で、身分手形にはイシュタル女王の御璽が押してあります。

 自分で自分の御璽を、バンバンと押しましたね。

 一座の馬車はアポロさんが用意しました。


 出し物は色々紛糾しましたが、最初にアテネさんの剣舞、ついでサリーさんがエラムの踊り、小雪さんのバレエのジゼル、最後に私がベリーダンスを踊ることになりました。


 小雪さん、なぜ貴女がジゼルで、私がベリーダンスなのですか?


「小雪さん、ジゼルの第一幕を踊るのですか?」

「いいえ、第二幕ですわ、第一幕の小娘の踊りは好きではありませんし、狂乱の踊りは私には理解できません」


「大体、男に裏切られて錯乱して死ぬなんて、そんな愚かなことは、私の矜持がゆるしません」

「でもマスターに裏切られたら、錯乱するかも……」

 小雪さん、顔が怖いです……。


 ジゼルの第二幕って、死装束で踊るバレエでしたっけ?

「で、なんで第二幕なのですか、それに第二幕は一人では踊れないかもしれませんが?」

 そう、ジゼルの第二幕は、夜の森の沼のほとりの墓場で踊られます。

 その時、ふわっと浮き上がり、亡霊のように踊る有名な踊りは、ソロで踊れないのではと思うのですが?


「マスター、ここは惑星エラム、ジゼルをその通り踊る必要はありません、それにエラムには魔法があります」


 魔法?


 浮遊の魔法のイメージが湧きません。

 風をイメージすれば可能でしょうが、舞台で踊る時に、風が渦巻いては問題がありましょう。


 私が首を傾けていると、小雪さんが、「ビクトリアという魔法ですよ」

 なるほど、ビクトリアさんが黒子として、小雪さんを持ちあげるのですか。


 小雪さんはビクトリアさんの師匠、嫌とは云いにくいですね、可愛そうなビクトリアさん!

 それで、アテネさんが最初なのか分かりました。

 ビクトリアさんが黒子をしている間、アテネさんが警備をする訳ですか。


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