論理が何ですか!どぶに棄てればいい!
小雪さんも、
「私のデータベースにも、主席というものは存在しません。しかしダフネさんが云った通り、とてつもない能力です」
「マスターの前に出なかったことなど、その慎重な行動を考慮すると、必ずしも友好的ではないかもしれません」
私は考えます、
「しかし、敵対的なら何故、私たちに情報を伝えたのか、何か意図があるはず」
「自分の存在を知らせ、私がその結果、行動する影響を読んでいるはず。でも無理して行動をいらぬ方向へ向けるのも、癪だが公平をかくことになる。なるほど、主席の云う通りですね」
私たちはしばらく沈黙していました。
「私は主席を知っている……」
突然ビクトリアさんが云いました。
「聞いてくれ、私は侯爵の娘として生まれた」
「16歳のとき、侯爵家が謀反の嫌疑を掛けられ、一族は殺されたが私はなんとか生き残った。奴隷として生かされたのだ」
「魔法により自決できなくされ、地獄の日々を送っていたが、22歳の時、通りかかった魔法士により助けられた」
「魔法士より自身にかかった魔法を消してもらい、しばらくお仕えしていた。そして魔法士の最後の魔法により、その魔法を手に入れ傭兵となった」
「私は自身に謀反の嫌疑をかけた大公を暗殺し、その家族も殺した。さらにそれを見抜けなかった王も、復讐のため暗殺した」
「その時、主席があらわれた。主席は私を世界に害をなすものとして、身体組織の老化の遅延という魔法を私に掛けた」
「以来350年、世界を彷徨い傭兵を生業としていた。主席に出会った時、恐ろしかった、姿形が分からないのだ、だがそこにいる、ものすごい冷たさを感じた」
サリーさんが、「ビクトリア」といって抱きしめている、心なしかサリーさんが泣いている。
「サリー、ありがとう、こんな私でも泣いてくれるのか?」
二人の顔が切なさそうで悲しそうで……
私の中で何かがはじけました。
私は決意しました。
「ビクトリアさん、貴女は私の大切な人、そんな昔は私には関係ない、でも人は因果応報、貴女が昔を気にするなら、気が済むまで、貴女のなすべきをなせばいい」
「貴女がそれをするなら、私もそれを手伝いましょう、忘れなさいとは言わない、過去は消せないもの、でも未来で打ち消すことはできる」
「ビクトリアさん、貴女が苦しむなら、私が貴女を救ってあげる。私に尽くしなさい、私が貴女の未来を切り開いてあげる」
「だから私についてきなさい」
「皆もそうです」
「ここにいる人は主席が云ったように、つらい過去を背負っている」
「この私も、幼くして両親を事故でなくした、その時、男として絶望的なことになった」
「いわれのない差別の中、唯一の救いが姉だった、姉が私を必死で守ってくれた、そのお陰でここまで来られた」
「皆さんは私よりも、もっと過酷だった、頼れるものもなかったのかもしれない」
「でもいま、私が皆さんの側にいます!」
「私は必ず皆さんの側にいます、私が命にかけて守って見せます!」
「年上の方が多いのですが、私は皆さんの姉になって必死で守りましょう!」
「だから皆でこれからを一緒に生きましょう!」
「時を共にしましょう!」
「苦しみを共にしましょう!」
「楽しみも共にしましょう!」
「この私は皆さまのもの、この心も皆さまのもの、差し出します、でも誓ってください、私から離れないと」
私はいつの間にか泣いています、ボロボロ泣いています。
自分の言っていることが、論理的ではないのは分かっています。
しかし、
「私はビクトリアさんの、その寂しそうな顔が我慢できない、こんな顔を皆さんにしてもらいたくない」
「私が必ず皆さんの顔を笑顔にしてみせる、私は今、論理的ではないのは分かっています」
「でも論理が何ですか!」
「私の大切な人が、こんなに悲しそうな顔をしているのに、何が論理的ですか!」
「そんなものはドブに棄てればいい!」
アナスタシアさんが、「イシュタル様」と私を抱きしめてくれました。
「アナスタシアさんも、悲しいでしょう、ありがとう、私は貴女にも誓う、貴女の未来が輝けるように、私は必死に考えます」
そして、
「サリーさん、私のサリーさん、ダフネさんも、アテネさんも、小雪さんも、アリスさんも、私は誓う、私は命をかけて大事な人を守る、悲しい顔はさせない!」
私はいつまでも泣きました。
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