第一章 出迎え

異変

 気がつくと棒を抱えていた。

 足が寒いので俯くと、小さい靴が見えた。


 周りを見回すと、森の中ぽかりと開いた場所であった。

 祭壇のような石の上で、気絶していたらしい。


 体が鉛のように重い、頭がボーとしている。


 ここはどこだろう?

 大学の午後の講義を受けにきたのに……


 まてよ?

 電車に乗ろうと思って……

 姉さんが出てきて……

 セーラー服を手渡されて……


 ……


 確か私の死体を見た!!

 私は死んだのか、これは夢なのか、妙に生々しい。

 頭が混乱する中、綺麗な女性を覚えている。

 確か力を貸して欲しいと云っていたような気がするが……

 思考が停止したいと叫んでいる。


 頬を伝う風を感じる。

 日差しの暖かさを感じる。

 しばらくボーとしていたら、少し落ち着いてきたのか、ある異変に気がついた。


 私は今、スカートを履いていなかったか???

 俯くと細い足と小さな靴が見える、動かしてみると確かに私の足に違いない。


 黒っぽいヒダのあるスカートの中から、スラリとした二本の足が見えているが……

 恐る恐るスカートを持ち上げて見ると、どこかで見た記憶がある。

 確か姉が履いていたセーラー服のスカートに似ている……


 あのとき姉は、セーラー服を着ろと云っていたが、この服のことだろうか……


 思い出した!

 あのとき私は、ホームからだれかに突き飛ばされたのだ!


 確かに私は死んで、死体を見下ろしていた。

 幽体離脱というものだろう。


 姉はアメリカにいるはず、もし私が死んでいるなら、姉はどれだけ悲しんでいるだろうか……

 たった一人の肉親で、姉弟力を合わせて生きてきたのに、姉一人残してしまったのか……


 さて、多少とりみだしたが、現実を認めると私は死んだと思える。

 しかも今いる世界は、地球と明らかに違う。

 私の目の前に広がる、この植物を見れば一目瞭然だろう。


 顔を手で覆って俯きながら考えていたら、手が華奢なのに気がついた、綺麗な手である……

 それに……胸がでている?


 思わずその手を下ろして、前を触って見ると……


 ない!


 こんな場所で、だれも見てないのを確認するのも可笑しかったが、思わず周囲を見回した。


 意を決し、スカートをめくりあげ、白いパンツをずらし、俯いて確認してしまった。

 たしかに女性としてあるものがあるらしい。


 女性の裸なんて見たことがない……姉の裸は見たとは思うが、そんなもの記憶にはない。

 だから確証がないが、多分今見ているものが、そのようなものなのだろう。


 そもそも、なぜ女性用のパンツなど穿いているのか……

 これ、ショーツと呼ぶ物?だよね……

 さっきは慌てていたが、胸には白いブラジャーもつけている……


 女性になり、女物の下着を身に着け、セーラー服を着ている……

 履いている靴も、女学生のスクールシューズと思われる。


 どうしよう……


 さすがの私もパニックになりそうだ。


 身近な話、女性のトイレの仕方も、頭では知っていても実感がない、粗相をする可能性だってある。

 私はどうなるのだろう、泣きたくなった。


 とにかく私は、ショーツを穿きなおし、スカートを下ろしパニック状態を乗り切ろうと、真剣に周りを再度見まわした。


 私は棒を抱えていたが、これは何だろう?

 緑色をした、少々長い杖みたいなもので、どうもグラスファイバー製のように思える。


 私は大学で、研究生活に入れ込んでいたので、生活物資はインターネット通販に頼っていた。

 良く姉が笑っていたが、これで十分と豪語したものだ。

 記憶力は結構いいほうなのが幸いした、この棒には覚えがある。


 通販の知識によれば、これは警杖型のスタンガン、確か護身用のものだ。

 手元にスイッチがあるので、興味本位で押して見ると、棒の先端が青く光りだして、パチパチと放電をおこしていた。


 まあ、こんな世界に一人ぼっちとなった今は、この子供騙しのものでも役に立つだろう。

 私は今、女性らしいから。


 祭壇の手の届くところに、小さいカバンが落ちていた。

 ショルダー式の、帆布製のミリタリーバックのようだ。

 手にとって見ると、中に何か入っている。


 手紙が一通と、金色のペンダントが一つ、テッシュ&ハンカチ、さらに両親の形見であるハーモニカと鏡が入っていた。


 とりあえず鏡で自分を見た。


 衝撃的だった……

 そこには、この世のものと思えないほどの、美少女が映っていた。


 セーラー服の飾りリボンが、本当に似合っている、自分で自分を抱いてしまいそうだ。

 こんな美少女に見つめられたら、どんな男もいちころで落ちるだろう。

 まあ、自分で自分を抱くわけではないので、関係ないか。


 でも、これはこれで非常に困る。

 こんな美少女が一人、こんな場所にいればろくなことはない、警杖型のスタンガンがあって助かった。


 なぜ、こんな物がここにあるんだ?


 と、手紙が入っていたのを思い出した。


 これに何か書かれているだろうと読むと……


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