新入学生に向けた講演

 本学現今の服装心得は以前と同じにして地質はモスリンでもカシミヤでも構わない。

 其の為生徒には寝押しをせずに済むと評判であるが、以前は決まりが無かった袴章の代わりに袖口の絞り紐が其の役目を果たす事と成った。

 其所か以前は丈長き袴を胸高に着用してもお咎めもなし。

 これは本学の設立理念が

 「将来の中等社会の婦人を育成する」

 事を目的とされており、更に本学校長の理念より

 「規定するのではなく(将来の中等社会の婦人として)何が望ましいか自ら思慮し、袴の地質や装飾品と云った華美の問題も本学は中流階級の子女ばかりが通う為に貧富の差が少なく其を以てして教育に弊在りとは云えず、彼様の問題はむしろ家庭で監督に勤る様父兄の理解を賜りたく」

 と云った風で

 「又規定により愛校心を育むの裏は他校の敵対心を育むの事と同じ也之が華美の問題を始めとした競争の弊なりし」

 と本校講堂で自説の講演を行うほどで本学生徒は入学すると先ず之を聞かされる。

 最後に

 「本学女生徒諸君に於いては愛校心よりも大日本を愛し将来の母たる自らを愛し将来の夫を愛し子を愛し育む事を切に我は望む」

 と締め括るので生徒達には

 「何でも愛々々とLOVEの乱舞、キリスト教主義でもないのにまるで其の如し」

 と評される。上級生とも成れば

 「私、此処を卒業したらタイピストに成る積りよ」

 や

 「やあネ。朧月夜の講演も何回目かしら」、「なアに四回目じゃない」

 等と最早聞き飽きた様子であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る