加速

 おれはまず、ハンファの傍まで駆け寄り、助太刀した。

 ハンファが相手していた盗賊を、横から斬り殺す。


「すなまい、助かった」


「礼は後でいい、お前は下がっていろ。どうせその傷じゃあ、思うように剣は振るえないだろ。後ろでオリゴたちの護衛に徹してくれ」


 右肩に矢が突き刺さっているからな。

 ハンファは右利きのようだし、剣の動きがぎこちない。

 おそらく矢によって腕の動きが制限されているのだろう。


「すまない……」


 そう言って、ハンファは大人しく下がっていった。

 さて、これで前衛はおれとアイサンだけか。


 盗賊の前衛は十人程。

 残りは弓矢を持っている。


 二対十か。

 まぁ、問題ないだろう。


 体に魔力を巡らせる。

 身体強化魔術だ。


 この魔術は、力、俊敏さ、頑丈さ、跳躍力など、身体能力全体を向上させる魔術だ。

 ゴブリンキングと戦った時も使ってはいたが、奴の魔物としての身体能力の前ではあまり効果がなかった。


 だが、おれはあの戦いから反省して、毎日修行を欠かさず行ってきた。

 そして、魔術の改良にも取り組んできた。

 その成果を見せる時だろう。


 盗賊相手に過剰な力はいらない。

 奴らは碌に装備も着けてない、ただの人間だからな。


 必要なのは、多数を相手取る速さだ。

 おれは、魔力を足と腕に集中させながら、速さを意識した。


速度向上アクセル!」


 そして、爆発的な速度で動き出し、盗賊を斬っていく。


 一人、二人……三人、四人……


 盗賊は、人間とは思えない、おれの速度に対応出来ていない。


 斬りかかる時に碌に防ぐ事も出来ず、斬られた後で剣を構えようとして、崩れ落ちていく。

 自分が斬られたという事にすら気付かせない。


 これがおれが編み出した加速魔術だ。


 問題は、速すぎる動きにおれがついていけず、直線的な動きしか出来ないという事だ。

 おそらく格上相手には通用しないだろう。


 対多数の乱戦向きの魔術だな。


「なんなんだこの速さは……」

「やべぇぞ。相手になんねぇ……」

「馬鹿! ビビるんじゃねぇ! いくら速くても囲めばどうにも出来ねぇはずだ!」


 ふむ。

 最後に発言した奴、あいつが盗賊のかしらのようだな。


 おれは他の盗賊を放置して、頭だと思われる男の前まで移動した。


「よう」


「っ!? 舐めやがって! この」


 ザシュ。


 盗賊の頭は何か言おうとしたようだが、その時にはもう頭が首からずり落ちていた。


「ひ、ひいいいぃーーーー」

「頭がやられたぞ!?」

「に、逃げろ! あんな奴にかないっこねぇ!」


 盗賊たちは頭がやられた事で、動揺し、銘銘めいめいに逃げ出していく。


 ここで追撃をかけてもいいが、別に依頼を受けている訳じゃないからな。

 ここは逃がしてやろう。


 一纏めに逃げるなら魔法で攻撃するが、バラバラに逃げてるから面倒だしな。


「ふぅ。終わったな」


 加速の魔術を解除する。


「お前、駆け出しじゃなかったのか……」


 アイサンが話しかけてくる。


 まったく、どいつもこいつも駆け出し扱いしやがるな。

 そんなに弱そうに見えるのだろうか?

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