悪役令嬢
「私も、噂でしか知らないのですが……」
そう言って、娘は知る限りの情報を教えてくれた。
それによると、レオンハート侯爵家の令嬢というのは、酷く傲慢で嫌な奴らしい。
学園には優秀だが身分が低い女の子がいて、その子は侯爵令嬢にいじめられていたらしい。
令嬢曰く、薄汚い平民風情の娘が私より成績がいいのは許せないとの事。
平民の入学者っていたんだな。
令嬢には取り巻きが多く、派閥も出来ていて、新たに標的にされるのが怖くて誰もその子を助けてあげれなかったそうだ。
教師たちも、いじめの事実を知っていても、侯爵家の報復を恐れて、令嬢に注意をする事が出来なかったらしい。
しかし、そんな所に勇者が現れた。
勇者はいじめの事実を知ると憤り、令嬢と退学を掛けて決闘したらしい。
その決闘で勇者は勝利し、令嬢は学園を去ったそうだ。
身分に関係なく、困っている者を助ける為行動した勇者を、王は褒めたたえたという。
そうしてこの事は王家から勇者の美談として正式に発表され、今では王都中の民の知るところになったそうだ。
「なるほどな……」
それにしても、勇者は少しやりすぎなんじゃないか?
話を聞く限り、確かにその侯爵令嬢が悪いんだろうが、いきなり退学をかけて決闘とは過激なことだ。
それに王家からお触れが出るなど、まるで公開処刑じゃないか。
だがまぁ、自業自得なのだろう。
おれの感想はそんなもんだ。
所詮、他人事だしな。
「あいつ何やってるんだよ……」
ユースケが呟く。
やはり、知り合いとして何かしら思うところがあるのだろう。
「くそっ!! 学園編とか羨ましいぜ畜生!!」
なんだそりゃ!?
まぁ、ユースケはどこまでもユースケという事か。
「馬鹿」
フェミリアが呟く。
その意見には同意するぞ。
話してくれた少女達に礼を告げ、おれ達は酒場の席に着いた。
別に今から飲むわけじゃない。
今後の事について話し合うためだ。
店員に紅茶を三つ頼み、おれらは顔を見合わせる。
「それでどうする、ユースケ? お前の予想では勇者は旅立っているはずだったんだろ?」
「あぁ、予想がはずれたぜ。まさかこの街に学園があったなんてな」
「勇者とはあまり関わりたくないんだろ? コサイムに行く前に王都を観光するつもりだったが、予定を早めるか?」
「そうだな……そうしてくれると、助かる。あいつらに見つかったら、王にも伝わるだろうしな」
確かにユースケの話に聞く王は酷く胡散臭い。
この国は特に窮地になんて陥っていないからな。
「なら、コサイムまでの護衛の依頼を探すか」
「そうだな」
おれたちは依頼が張り出してある掲示板の前まで移動し、依頼を探したが、初心者向けの依頼ばかりで残念ながらコサイムへの護衛依頼はなかった。
「仕方ない。金は高くつくが、貸し馬車を探すか。行きはおれたちが護衛すればいいしな」
貸し馬車とはその名の通り、馬車を貸し出してくれるサービスだ。
御者もついている。
しかし、長期間拘束するうえに、行きと帰りの護衛に冒険者を雇わないといけない事もあり、値段が非常に高い。
だが、背に腹は変えられないしな。
おれらは貸し馬車を使う事にした。
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