信頼

「大丈夫かアル!?」


 ユースケが駆け寄ってくる。


「あぁ、なんとかな……治癒ヒール!」


 治癒魔術で怪我が治っていく。

 外見上は完治したが、腹部に違和感がある。

 骨が折れているのかもしれない。


治癒ヒール! 治癒ヒール!」


 連続して治癒魔術を掛けることで、その違和感も消えた。


 それにしても、これだけ隙だらけだったのに、ゴブリンキングは嘲るように笑っているだけで、襲ってこなかった。

 そればかりか、手下のゴブリンでさえ遠巻きに見ているだけだ。


「舐められてるな……」


 おれ達なんかその気になればいつでも殺せると。

 強者の余裕ってやつか。


 確かに奴は強い。

 だが、その油断が隙と……っ!?


 ダメだダメだ!

 さっき自覚したばかりだろう。


 奴は強い。

 そして、おれは弱い。


 おれはあくまで挑戦者だ。

 その事を忘れてはいけない。


「ユースケ、奴は強いな」


「あぁ」


「そしておれは弱いな」


「そんな事ないだろ。アルだって十分……」


「いや、おれは弱い。だが、だからこそ強くならなきゃいけない」


「っ! そうだな。強くならなきゃな」


「だからこんな所で死ぬわけにはいかない。勝つぞ。絶対に」


「あぁ! 勝ってフェミリアちゃんに良いとこ見せて惚れ直して貰わなきゃいけねーもんな!」


 惚れ直すって、お前、元からあいつはお前に惚れてないだろ。


 だが、そんなユースケの軽口のおかげで無駄な緊張が解けた。


 相手は格上。

 だが、それがなんだ!


 自分より弱者しかいない世界なんてつまらない!

 さらなる成長を、高みを目指せる存在がいてくれる事におれは感謝するぞ!


「ユースケ、行くぞ。合わせろっ!」


「無茶言ってくれるねぇ、相棒!」


 おれは再び駆けだした。

 ゴブリンキング目掛けて、愚直に。


「あああぁーーーー!!!」


 剣を振るう。

 考えず、思うがまま振るう。


 思考する時間がもったいない。

 体が覚えている動きをすると信じて、無我夢中に振るう。


 だが、届かない。

 全ての攻撃が防がれる。


 それでも諦めず振るい続ける。

 息が続かない。


 一呼吸入れる為、後ろに飛びのく。

 しかし、その隙を奴は見逃さないだろう。


 ほら。やっぱり。

 このままだとおれは斬られるな。


 迫りくる大剣を見ながら、おれはそう考えていた。

 しかし、焦りはない。

 なぜなら……


鋭利な風トルネードカッター!!」


 突如襲ってきた風に、ゴブリンキングはよろめき、態勢を崩す。


 肺にめいっぱい空気を吸い込んだおれは、逆にゴブリンキングの隙を突く。


「ギギャア!?」


 通った。

 初めて奴に攻撃が通った。


 胸に致命傷とは程遠い、浅い傷をつけただけだが、攻撃は攻撃だ。

 さっき腹を殴られた仕返しにはなっただろう。


 そう。

 おれは一人で戦っているんじゃない。


 ユースケという、相棒バディがいる。

 だから、焦る必要はない。


 ただ信じて戦うのみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る