宴会
その日の夜、防衛に参加した騎士、冒険者関係なく、宴会が開かれる事になった。
場所は街の広場だ。
広場に用意されたテーブルには、山のような食べ物と、沢山の酒樽が所せましと並び、周囲には多くの屋台が無料で営業している。
この街を治めるラース卿が資金を提供したようだ。
名目はゴブリン撃退の祝い。
実際には多くのゴブリンを取り逃がしているのだが、その事実を払拭したいようだ。
だが、こんな事をしてていいのだろうか?
確かにゴブリン共は森へ逃げ帰った。
しかし、その実態はまだ多くの数を残し、上位種も打ち取られていない。
また街へ向けて進行してこないと誰が言えるだろうか。
きっとおれの他にも、そう考えているものはいるはずだ。
だが、誰もそれを言い出せない。
なんせ今回の戦いで活躍したのは、おれだけだ。
自画自賛になるが、明らかにおれの魔法によってゴブリン共は撤退していった。
そして、騎士団の主力の歩兵部隊は、ゴブリンを取り逃がしてしまった。
ここでまだゴブリン共は多く残っていると言ったら、それが誰の責任なのか一目瞭然だ。
だからゴブリンを撃退したと、騎士団の手柄にして宴会を開いている。
事実の隠蔽だ。
正論を言った者は、騎士団とラース卿の不興を買うだろう。
だから誰も言い出せない。
もちろん当事者のおれから言うなんて言語道断だ。
こんな言い方をしちゃあれだが、別におれはこの街の統治者でもなんでもないからな。
たとえまたゴブリンに襲撃される事になろうが、おれには責任はない。
それまでにこの街を出ていくだけだ。
こんな平和呆けした領主が治める街は、危険だからな。
「アル、なーに暗い顔してんだよー? 今日の主役がそんな端っこで一人でいたらダメだろおぉー??」
酒に酔ったユースケが絡んできて鬱陶しい。
こいつ、酒は飲んだことないとか言って、一口飲んだら苦いとか言ってたくせに、酔っぱらうまで飲むなよな。
「ユースケ、滅多な事は言わない方がいい。冒険者や騎士団、皆の活躍でゴブリンは撃退された。いいな?」
「なぁーんでだようぅー。ほとんどアルのまほーのおかげじゃないかあぁー。騎士団なんてぜんっぜん役立たずでさぁー」
馬鹿! 何てこと言うんだこいつ!
「何だと!? 聞き捨てならんな!」
ほーら、やっぱり面倒なのが絡んできたじゃないか。
「なんだよお前ぇー? アルが活躍したのは事実だろおおおおええええぇーーー」
そこで吐くのかよユースケ!?
もうめちゃくちゃじゃないか!
「ふんっ! 酒の飲み方も知らん餓鬼が。貴様もまさか自分の事を英雄だなんて勘違いしちゃいないだろうなぁ? えぇ?」
あーあ、矛先が完全にこっちに向いちゃったよ。
「別にそんな事思ってねーよ」
「ふん、どうだか。」
早くどっか行ってくれないかな、こいつ。
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