奴隷解放

 オークション会場を出たおれ達は、街の広場にやってきた。

 周りには屋台が出ていて、美味そうな匂いが漂っている。


「ここらでいいか……」


 ユースケはそう呟き、広場の中央にある噴水のふちに腰掛ける。


「さてと、おれはユウスケ・フジキ。君の……ご主人様になるのかな?」


「……」


「こっちにいるのはアル。おれの友達だ」


「……」


 どうやらおれは、いつの間にかユースケの友達になっていたようだ。

 別に嫌なわけじゃないが……

 なんだか直接言われるとむずかゆいな。


「それで、君の名前を教えてくれないか?」


「……」


 獣人の娘は黙ったままだ。

 警戒しているのだろう。

 もっとも、隷属の魔術を掛けていれば、こんな反抗的な態度は出来なかったはずだ。


「だんまりか……そうだ! ちょっと待っててくれ」


 そう言ってユースケは屋台へ走っていった。


「……」


「……」


 おれと獣人の娘の間で、気まずい沈黙が漂う。


 自分の奴隷ほっぽり出して、なにやってるんだよユースケ。

 早く戻ってこい。


「ただいま!」


 元気いっぱいにそう言いながら、ユースケが戻ってきた。

 手には山のように食べ物を持っている。

 どうやら屋台を梯子してきたようだ。


「気が利くなユースケ。ありがとう」


「そうだろそうだろ……って、お前のじゃねーよ!!」


 なにっ!?

 おれが腹減っているのに気が付いて、買ってきたんじゃないのか!?


 とまぁ、茶番は置いておいて、この娘の為に買ってきたのだろう。

 ふむ。餌付け作戦か。


「ほら。君のだよ」


 ユースケに食べ物を渡された娘は、食べ物とユースケの顔を交互に見ている。

 どうやら悩んでいるようだ。

 だが、口からよだれが出ているぞ。


「食べていいんだよ。たんとお食べ」


 ユースケがそう言うと、娘は我慢しきれなかったのか、夢中で食しだす。


「よし。第一歩目成功っ!」


 ユースケが小声で喜んでいる。

 やはり餌付け作戦だったか。


「美味しかったかい?」


 その問い掛けに、娘は無言で頷き返す。

 どうやら食べ尽くしたようだ。


「フェミリア……」


「ん?」


 奴隷の娘が小声で囁く。


「私の名前……フェミリア……」


「そうか、フェミリアか。よろしくな!」


 娘の名前はフェミリアというらしい。

 さっそく餌付けの効果が出たな。


「フェミリア、おれは奴隷と主人という強制的な主従関係は望まない。だから君に隷属魔術は掛けなかったんだ」


「うん……」


「君とはちゃんとした信頼関係を築きたいんだ」


「うん」


「だからこの奴隷の首輪は外すよ」


「え……?」


 ユースケは奴隷商の男から受け取った鍵で、フェミリアの首輪を解除する。


「これで君は自由だ」


「え……私、自由? いいの……?」


「あぁ、もちろんさ。君はもう奴隷じゃないんだ」


「ありがとう……」


 そう言ってフェミリアは走り去っていった。


「え? ええ? あっれー!?」


 ユースケは小さくなっていくフェミリアの影を見つめながら首を傾げている。

 その後ろで噴水の水が盛大に舞う。


 こいつは馬鹿か?

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