隷属の魔術

「アル、すまないが……」


 あぁ。どうやらやり取りも終わり、金を払う場面になったようだ。

 おれは大金貨五十枚を数えながら袋から出し、机に積み上げていく。


 ダート商会のように先に小分けして、大金貨が入った袋ごと渡せばよかったな。

 なんだかこうして机に積み上げるのは、下品に感じてしまう。


 おっと、これで丁度五十枚だな。


「はい。確かに大金貨五十枚受け取りました。では奴隷は別室で待機しているので、職員に呼んできてもらいましょう。私はこれで……」


 取引はこれで終わりのようだな。


「ユースケ、よかったな。これであの奴隷はお前の物だ」


「あぁ。おれの物かぁ……。嬉しいけど、なんだかやっぱり人を物扱いするのは違和感があるなぁ……」


 そんな会話をしている最中、さっき出ていった職員が獣人奴隷を連れて戻ってきた。

 それともう一人、魔術師らしき風貌の男が入ってきた。


「フジキ様、こちらが今回落札なさった奴隷です。おいっ! お前のご主人様になるお方だ! 挨拶しないか!」


 そう言って職員は獣人の娘を蹴りつける。

 だが、獣人の娘は痛そうにしながらも、どこか反抗的な目つきで職員を睨んでいる。

 自己紹介する気はなさそうだ。


「お、おいっ!? やめろっ!!」


 そんな職員をユースケが慌てて止めに入る。


「これはこれは、申し訳ありません。この奴隷はすでにフジキ様の所有物でしたね」


「いや、そういう意味じゃないんだが……」


「そろそろいいか?」


 ユースケと職員のやり取りに関心を示さなかった、魔術師風の男が口を開く。


「そうでした。フジキ様、こちらは商業ギルドが雇っている、闇属性の適性を持つ魔術師です。この魔術師の魔術により、この奴隷はこれから先フジキ様に反抗出来なくなります」


「これから隷属の魔術をこの奴隷にかける。その際あんたの血が必要になる。だからこの針で」


「いや、いい。」


 ん?

 どうしたんだユースケ?


「別に大して痛くはねーぞ? 血が必要といってもほんの少量」


「いや、いいんだ。」


 どこか決意したような表情で、ユースケは告げる。


「いいってどういう事だ?」


「隷属の魔術は……必要ない」


 どういうつもりなんだユースケ?


「おれは……隷属の魔術なんかじゃなくて、このとちゃんとした信頼関係を築いていきたい」


「ほう……。まぁ、いらねーってんなら仕方ない。ってことでおれの仕事は終わりだな。ちゃんと給料出せよ?」


 魔術師の男は職員に軽口をたたきながら出ていった。


「ユースケ、お前……」


「とりあえず、ここを出よう。君もほら……」


 おれ達はユースケの提案に従って、オークション会場を後にした。

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