落札

「ユースケ、大金貨五十枚貸してやる。ただし返すときは大金貨六十枚返せ。それでいいなら貸してやる」


 おれは出来るだけ無表情でそう告げた。

 これで借りるも借りないもユースケ次第だ。


「っ! 利子取るのかよ……」


「当たり前だろ。善意で無利子で大金貨五十枚も貸す奴がどこにいる」


「そう、だよな……。大金貨十枚の利子かぁ……」


 む。少し多すぎただろうか。

 前世含めて今まで金貸しに関わったことがないから、この金額が適当かどうか判断できない。


 だが大金貨五十枚を期限を定めずに、証文もなく貸すのだ。

 高すぎるということはないだろう。


「分かった……。すまんが、その金借りるぜ」


 ユースケはそう言って、どこか吹っ切れたように笑った。

 腹をくくったのだろう。


 見ず知らずの奴隷の為にここまでするとは、凄い奴なのかもしれないな、こいつは。

 まぁ、実際は奴隷ハーレムがどうこうと考えているんだろうが。


「よし、なら早く落札しないと取られちまうぞ」


 現在の落札金額は大金貨四十三枚だ。

 誰もがこれで決まりかと思った時、ユースケの大声が会場に響き渡った。


「大金貨五十枚だ!!」


 会場が静まり返った。

 本気かよこいつ、一気に大金貨五十枚に上げやがった。


 いくら大金貨五十枚借りたといっても、普通ギリギリまで攻めるだろうよ。

 大胆というか馬鹿というか……


「ご、五十枚でました!! 五十枚です!! それ以上の方はいませんか!?」


 どうやら司会者も興奮しているようだ。

 騒然とした会場からは、五十枚以上の声は聞こえない。


 四十三枚で落札しようとした奴が、悔しそうにこっちを見ている。

 どうやら大金貨五十枚以上は出せないらしい。


「五十枚!! 大金貨五十枚で落札です!! 本日最高額です! 落札者の方に拍手を!」


 会場が拍手で包まれる。

 ユースケは照れているのか、顔が赤い。


 まぁ、その金おれの金なんだけどね。

 といっても、それもまだ落札されぬアイテムバッグ次第なんだが。


 これでアイテムバッグが大金貨五十枚以下で落札されたら、大変なことになるな。

 下手すれば奴隷落ちもあるかもしれない。


「ユースケ、やったな。」


「あぁ、ありがとう。アルのおかげだ。金は必ず返すよ」


「そうしてくれ。でないとおれはユースケの事を……」


 右手を剣に添えながらおれはそう言う。


「おいおいおれの事をなんだよ!? 怖ぇーから続き言ってくれよ! いや、やっぱ言わなくていい!! 必ず金は返すからな!?」


 ふふ。少し脅かしすぎたようだ。

 だがこれでしっかり返済してくれるだろう。


「頼むぞ。あとアイテムバッグが大金貨五十枚以上で落札されるよう祈っててくれ。」


「あぁ、そういやそうだな。まぁ大丈夫だろ。」


 ユースケは呑気にそう返しやがった。

 お前、獣人奴隷を落札したからって、気が抜けすぎだろ。


 これで大金貨五十枚以下なら、獣人奴隷の落札もおじゃんになるって分かってるのか、こいつ?

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