疑惑
昨日は結局一日中、勇者の事について考え続いた。
その結果、少し妙な事に思い至った。
ユースケの事だ。
ユースケを初めて見かけた日、あいつは訳の分からない事を喚いていたが、確かその中で"この世界"という言い回しを使っていたはずだ。
この世界……つまり、別の世界を知っていると考えるべきだろう。
それに珍しい黒髪黒目の容姿に平たい顔。
貴族じゃないのに名字を持っているという事実。
いかにも怪しい。
だが、ユースケは魔法について知っているようではなかった。
それに冒険者ギルドの存在が当たり前のように振舞っていたし、少なくともおれの前世と同じ世界の人間ではないだろう。
いや、おれも前世の世界全てについて詳しく知っている訳ではないが、可能性としては低いということだ。
だが、ユースケが別の世界から来た人間だという可能性は高そうだ。
ではユースケが勇者かと言われたら、違うだろうが。
勇者は王都にいるらしいしな。
だが、少なくとも勇者と何らかの関りはあるはずだ。
色々と想像はつくが、いくら考えても結果は答えは出ない。
今日は共にオークションに行く予定だし、思い切って直接聞いてみるか。
おれはユースケとの待ち合わせ場所に急いだ。
◆◆◆
「すまん、遅くなった」
待ち合わせ場所のオークション会場前には、すでにユースケがいた。
どうやら少し遅れてしまったようだ。
「よっ、アル! おれもさっき来たとこだよ。」
「そうか。それはよかった。時間も迫っているようだし、さっそく入ろうか」
「あぁ。そういえば、エリスさんも来てたぜ」
エリスも来ているのか。
冒険者ギルドから出品するんだし、職員が来て当たり前か。
それなら最初から一緒に誘えばよかったな。
まぁ、今更考えても仕方ない事か。
入り口にいた人間に、エリスから預かった冒険者ギルドの書状を見せる。
「今日オークションに出品する事になったアルグラウン・フォングラウスだ。こっちは連れだ。入ってもいいか?」
「ようこそお越しくださいました。フォングラウス様は大変貴重な品を出品してくださったとか。ありがとうございます。本日のオークションをお楽しみください」
どうやらおれがアイテムバッグを出品した事について知っているらしい。
それもそうか。
アイテムバッグは誰もが欲しがる魔道具だし、そんな魔道具が冒険者ギルドから飛び込みで出品された。
そして、冒険者ギルドの書状を見せるおれ。
誰がアイテムバッグの出品者か一目瞭然か。
受付の人間に挨拶を返し、おれとユースケはオークション会場の中へと足を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます