オークション参加を決めた翌日、おれは一日休む事にした。

 ここ最近は毎日依頼を受けていたからな。

 たまにはゆっくりしようという訳だ。


 一応、昨日の帰りに新しく買った素材袋に、朝から魔法を施した。

 今回は袋の中を広げる魔法は使っていないから、容量は少なくなるがちゃんと機能するはずだ。


「さて、まだ昼過ぎだし、街に繰り出してみるか」


 という訳で、おれは一人ラースの街を探索している。

 屋台で買い食いをしたり、雑貨屋で生活用品を補充したり。


 そういえば雑貨屋には、冒険者証用のペンダントが売っていた。

 銀製のペンダントが価格的によさげだったが、おれは銀に触れていると魔法を使えないので、少し高めだったが金製のペンダントを購入した。


 木製の枠に鉄製の四等級冒険者の証は似合わないと思い、ペンダントを買い替えたはずが、今度は金製のペンダントが目立ちすぎて、鉄製のメダルじゃ物足りない感じがする。


 これも金や銀のメダルなら似合うだろう。

 はやくランクを上げたいな。


 オークションが終わったらこの街を出るか。

 ユースケにも相談してみよう。


 雑貨屋を出てから、美味しいと評判の定食屋で飯を食べてる時、妙な噂を聞いた。


「なぁ、知ってるか? 王都で勇者が誕生したんだってよ?」


「勇者ぁ? なんだそりゃ? 誰かドラゴンでも倒したのか?」


「いや、それがその勇者は特に何も成し遂げてないらしい」


「なんだそりゃ? なんで何にもしてないのに勇者なんだよ?」


「知らねーよ! 王様が認めているからじゃねーのか?」


「なんでぇそれ、馬鹿らしい。王様も耄碌しちまったんじゃねーか」


「バカ! 誰かに聞かれたらどうすんだよ! 不敬罪で処刑されちまうぞ!?」


 ふむ。勇者か。

 誰もが憧れる物語の存在だな。


 しかし、勇者とは偉業を成し遂げて、そう呼ばれるようになるものだ。

 何もしてないのに勇者認定とは、政治的な意図でもあるのだろうか?


「それでその勇者がどうしたっていうんだよ?」


「あぁ。なんでもその勇者とやらは、異世界から召喚されたらしいぜ」


「異世界? なんなんだそりゃあ?」


「さぁ、おれにもよく分かんねぇーけど、この世界の人間じゃないってことだろ。」


「そりゃそうだろ」


 そこから先の会話は耳に入ってこなかった。

 異世界!? 召喚だと!?


 つまりその勇者とやらは、元はおれと同じ違う世界の人間だということか。

 召喚と言ってるし、おれのように生まれ変わった訳ではなさそうだが、実に興味深い話だ。


 出来れば会って話してみたいな。

 おれと同じ世界から来た可能性もあるわけだし。


 そしたら"銃"なる物の事も知っているかもしれない。


 危険だな……

 あの兵器は誰でも強力な魔法……魔術が使えるようなものだ。


 もしこの世界に銃が蔓延したらと考えるとゾッとする。

 もし危険な思考を持つものなら……


 いや、仮にも勇者と認められた者だ。

 品行方正とまでは言わないが、きっと善性の人物だろう。


 だが、善性だからといって必ずしも……


 その日は一日中、眠りにつくまで勇者の事について考えこんでいた。

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