貞操観念逆転系異世界転生譚

佐伯 伯

第1話

辺りを見渡すと生い茂る森の中。

「これ知ってる。アニメで見た事ある…」

秋葉を歩いていたらトラックに跳ねられ、気がつけば異世界。

そんなアニメや小説が好きだった。

それがまさか自分の身にも起こるとは思わなかった。

あれは空想の世界の話だからこそ楽しい。

最強になってハーレム作ってハッピーエンド。


しかし、実際はどうだ。

こんな森の中でどこに行けばいいのかわからず、どんな生物が居るのか分からない。

信じたいが2つの太陽がそれを否定する。

そんな時に右の方から人の声がした。

「そっちに行ったぞ!」

こんな何もわからない森の中で獣に食われたり、餓死するならば、一抹の望みに賭けて人に会うほうが良い。

人の声がする方に駆け寄った。


遠くから様子を見ると女の人が鎧を纏い大剣を携え、全長3メートルはあろう熊に毛が無いような生き物を追っていた。

熊の様な生き物が向かう先には男性が2人おり、杖の様な物を掲げその先端から丸太の様な氷柱が出現し、熊の様な生き物に向かって時速140km程の速さで飛んで行く。

飛来した氷柱が熊の様な生き物に深く突き刺さり、怯んだ。

そこに先程から熊を追っていた女戦士が人とは思えないほど跳躍し、脳天に大剣を叩き込んだ。

大剣を叩き込まれた熊の様な生き物は、脳漿を辺りにぶちまけ大きな地響きと共に沈んだ。

本当に異世界に来たのかと言う思いと、やはり自分ではあんな生き物と対峙出来ない事を理解し、彼らに接触する為に足を運んだ。


彼女らにある程度近づくと、女戦士がこちらに気づいた様子だった。

「こんな所に男一人で居るなんて変なやつだな」

彼女はこちらに近づきならが歩いて来る。

この時になってある事に気がつく。

会話が出来る。よくあるテンプレなパターンではあるが、実際に身に起こると理解し難い出来事だ。

話し掛けられて無視する訳にもいかず日本語で返事をする。

「実は気が付いたら、こんな所にいて記憶を失ってしまったみたいで…」

そう言うと彼女はよく分からなそうな顔をして言った。

「記憶?なんか大事なもん無くしたのか?」

記憶という概念がない!

驚愕だ。

確かに違う世界である以上自分が知っている概念がその世界に存在しないこともあるのか。

「えぇと、昔の出来事を全て忘れてしまったのです。」

もし適当に取り繕っても必ずおかしな部分が出る。

そうすると記憶が無くなった事にする以外方法が見つからなかった。怪しまれるかと思っていたが彼女は憐れむように肩に手を置いて言った。

「そうか、辛い目に合うとそういう事もあるって聞くからな…。お前は容姿が良いからな」

容姿が良いなんて生まれて初めて言われた。価値観すら違うのだろうか。

そう言って彼女は自分を抱き締めてきた。

振りほどくのも失礼かと思い、されるがままにしていると魔法らしきものを使っていた男達もやって来た。

「おい!何やってるんだ!」

彼女の彼氏かと思い恐る恐る彼を見ると、彼が非難しているのは自分ではなく、彼女の方だった。

「本当に最低な女だ」

そう言いながらもう1人の男性もやって来る。

彼らは彼女と自分を引き離し、心配してくれる。

「大丈夫だったか?変な所触られてないか?」

「こんな所で男一人なんて襲われたらどうするんだ。」

心配されてるのは分かるが何かが変だ。

まるで女性を心配するかのような感じ。

「うるせぇ!何もしてねぇよ!全く。なんか酷い目にあったかなんかで、狂っちまってるぽいな。何も思い出せないんだとよ」

違和感を考え込んでいて、返事が遅れた自分の代わりに女戦士の彼女が答えてくれる。

「そんな!?こんな若いのに可哀想に…」

「無理に思い出す必要はない。近くに町があるからそこで話そう。行き先がないならいい所を知ってるから安心してくれ」

不安で仕方がなかった世界でこんなにも優してくれる彼らに涙が出そうになる。

「本当にありがとうございます。」

そうして彼等に連れられて、近くの町へ向かう事になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る