“クラウドの受難”6話:面会×身内=歓談

 当初の目的としては「クラウドを助け出す事」であり、それが誤解だと分かったら、目的が「お嫁ちゃん(=私)と話す事」にシフトしていた白陽さん。目指した目的が叶うのであれば無理に戦う必要は無い、と、あっさり自力脱出アイテムを使って帰っていった。

 まぁ戦えばその本来の目的が遠ざかるよって説明したのは確かなんだけど。説得が通じて何よりである。……これが普段の加減知らずにも同じように説得されてくれたら言う事は無いんだが。


「まぁ無理だからこうなってる訳で。な、逃げ場がいよいよ無くなりそうなクラウド?」

『それなー。俺だってその話し合いに出るの嫌だけど、それならって彼女が配下入りを希望したら本気で逃げられなくなるからなー。ちなみに主、そうなったら断る?』

「受けるに決まってるだろ。ソールの上位互換と敵対する可能性がゼロになるんだぞ? というか、今回の攻略速度を見るだけで懐柔一択だ」

『だよな。知ってた』


 もちろんそのままの流れでクラウドに話は振っておく。察しの良い配下で助かるな。今までの経験かも知れないけど。

 と言う訳で早速お客様用階層、と言う名の客間を掃除。普段からしてるけど一応ね。お茶とお茶請けをどうしたものかとクラウドに聞いたところ、美味しい物なら何でも素直に美味しく頂ける人らしいので、私のお気に入りを選んでおいた。

 準備が出来た所で、ソールに連絡係として予定を聞きに行って貰ってと。


『いやだからなンでオレだァ!? 親父が適任だろォ!!』

「クラウドが行ったら返事貰って来るどころじゃないでしょ。そのまま私の事を忘れてクラウドがお持ち帰りされそう」

『主、大正解。だから俺はダンジョンから一歩たりとも出たくない!』

『どうどうとひきこもりせんげんか……あ、おれはやだからな、でんごんがかり』

『……と言うか、身内以外は、命が危ないでしょう……』

『これも一切否定できマセンね……』

『かの白陽じゃからのう……牽制の攻撃で致命傷、というのは十分に有り得るわい』

『ッグ……!』


 例によってソールは文句を言ったが、「だから選択肢が他に無いんだよ」(意訳)と返すと、渋々向かってくれたようだ。なお、本人も納得したことから分かるように、その内容は一切間違っていない。

 と言うかクラウド曰く、白陽さんは任意で自分の放つ光量を調整できるが、感情が高ぶったり混乱したりすると、その辺制御が効かなくなるらしい。つまり、うっかりするとあの当たり判定のある閃光が不意打ち&至近距離で来るって事だ。

 和やかな歓談中だと私だってとっさに反応できるかどうかは怪しいし、それ以外の皆はちょっと厳しいだろう。結論、素で耐えれるだろうソールが行くしかない。


「とりあえず……目標、クラウドが引き抜かれない、だな……」

『出来れば彼女の使徒入りも阻止したいけど、これに関しては俺だけしかメリットが無いからなー……』


 何より本番はこの後なのだ。本番ではただ控えて待ってるだけなんだから、今ぐらい働いてほしいって言うのも割と本音だったりする。




 白陽さんがいくらさくさくクリア出来たって言っても、一応ダンジョンの最深部まで来てるんだから、自力脱出アイテムで撤退した時点で夕方になっていた。夜はちゃんと寝るタイプだそうなので、面談……面会? お茶会? は、翌日の昼前からスタートだ。

 確認の時にお客さん用階層にいけるようになる招待状は、予定を聞いた時にソールに預けて渡してある。流石にこれが無いと色々どうにもならないし、帰って来てからまず真っ先に確認したから、渡しそびれたって事は無い。

 もちろんダンジョンに入ってくれば分かるので、入場制限を無視できる招待状を持って、足取り軽くエントランス階層を通り抜けていった白陽さんを確認次第、お持て成しの準備を整えて、


「っっダーリン!! 会いたかったわ!!」


 ドゴン!!! と、すごい音がしたことしか私には確認できなかったが……どうやら、お客さん用の扉を開いた次の瞬間、抱き着き、と言う名の全力タックルをクラウドにかましたらしい。

 うっわ、破壊不能の筈の壁に皹が入ってるって一体どんな勢いだ。そしてクラウドは……あ、うん。ちょっと意識飛んでるな。生きてはいるけど。


「お、あ、うん、うん。分かった、分かった、から」

「んーもー! 確かにあの日はちょぉっとやり過ぎちゃったと思わなくもないけどっ! そのまま冥府神様の所に家出までするなんて思わないわ!?」

「うん、う、ん。分かった、聞く、聞くから」

「しかもそのまま冥府でお仕事し始めちゃうなんて! 本当に! ほんっとーに、寂しかったんだからぁあああああ!!」


 …………そのまま抱きしめと言う名の締め落としか。クラウドの身体からミシミシ何か軋むような音が聞こえるんだけど、ソールが普通にしてるって事はいつもの光景なんだなこれ。


「いや、むしろかなり抑えてンぞ」

「あれで?」


 私自身も若干の心当たりがあったので、それも込みで睨み返すとすっと視線を外すソール。そうか、一応自覚はあったようで何よりだ。

 が、このまま放っておくと、持ち込んだ自力蘇生アイテムを使っての緊急脱出が発動してしまう。吐きかけた溜息をぐっと押さえ込んで、クラウドを抱きしめている白陽さんに声をかける。


「えー、感動の再開のところ悪いんですが、無視しないで貰えるとありがたいかなって」

「あらいけない私ったら。お嫁ちゃんと話に来たのに、ごめんね?」


 ころっと切り替わるあたり、ソールの言う通りだいぶ抑えていたようだ。……抑えててあれか。大体分かってたけど、この加減知らずは種族由来なのか血筋由来なのか、微妙なとこだな。

 ともあれ、一度クラウドを離して席についてくれた白陽さん。よかった、そのままぬいぐるみを離さない子供みたいに引きずっていかれたら困るところだった。主にクラウドが。回復できないって意味で。

 まぁともかく、席にはついてくれたので、被っていた帽子を外して顔を出す。


「あら? あらあらあら? ルゥ君ってば情熱的ね? お嫁ちゃんとの仲も聞くまでも無いかしら?」

「これは私の体質の問題なんで、気持ちとかとは全くの別件です」

「あらそうなの?」


 となれば、まぁ、私の顔右3分の1を占める契約紋が見える訳で。このまま首に伝わり、右腕全体に広がっているその紋様は、この金色が特殊な契約を強行した際に刻まれたものだ。

 今は普通に動かせるが、当初は感覚すら無かったからな。というか、今からでも消せるもんなら消している。せめてもうちょっと範囲を狭めろ。目立ってしょうがない。

 まぁ、それが出来ないからせめて普段はがっつり隠してるんだけどな。マフラーもこっちに移ってくるまでに買い直したし、手袋もはめてるし。


「そうなのダーリン?」

「何で俺に聞くのかな。まぁそうなんだけど。しるしを介した契約ごとに一切抵抗が出来ないっていう特殊体質。だから余計外に出たり、人と会ったりするのに警戒が必要なんだよ」

「それなら聞いた事あるわ! お嫁ちゃん、かなり大変な体質だったのねぇ……」

「正直死ぬところだった。というか死にかけた」

「まぁ! ルゥ君、加減出来なかったの!?」

「したわァ!? つゥか出来てなけりゃ嫁は今ここにいねェだろ!」


 あっはっは、三者面談染みたやりとりというか空気になってきたな。なんだこれ。まぁ和やかになぁなぁで済むんならそれがベストだったりするんだけどさ。






死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:9

マスターレベル:8

挑戦者:2336637664人

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