“クラウドの受難”3話:攻略/猶予=構築
その後順調に第12階層まで攻略を進めた白陽さんは、こちらも莫大な数の要望によって追加した自力脱出アイテムで撤退していった。監視画面がずっとホワイトアウトしていたからその理由までは分からないが、これでとりあえず1週間の猶予が出来た。
となると、今のうちに対策を進めておきたいところだが……ぶっちゃけ手詰まり感があるんだよな。現役時代の金鬼といい勝負、どころか、上位互換で何も間違ってないとは思ってなかったよ。
配下の皆に聞いたところ、神の使途をワンパンで行動不能にした、沼地を草原に変えた、土砂崩れをはじき返した、嵐を蒸発させた、気に入らない国を単身で潰した等々、ちょっと耳を疑うような功績もしくは所業が出てくる出てくる。
「本人見てなきゃどれも信じられない内容だな……」
逆に言えば、本人を見た現状では一切笑えないんだけど。そしてそれだけの相手をどうにかしなきゃいけないって事で頭が痛いんだけど。
……いやまぁ、絶対にどうにかしなきゃいけない訳じゃないんだけど。たぶんソールと一緒で心が折れるとかは絶対にないだろうし。だがクラウドが言うには、言葉を使おうという気になる程度には殴り返さなきゃいけないらしい。
その辺大いに心当たりがあるので、こうやって真面目に考えている訳だ。しかし個人殺しの仕掛けでソールの上位互換かー……。
「そもそもこっちは視覚が利かないのに、相手だけ全部見えるって時点で理不尽だな」
『ァー、嫁。お袋はあれ、見えてる訳じゃねェぞォ』
「は?」
『これが彼女の怖いとこでな……あのめっちゃ光ってるの、「手加減」なんだよな……彼女なりの……』
「えぇ……」
『光を撒き散らさなくなッて、目が見えるようになッてからが本番なんだよなァ』
なにそれこわい。監視画面が機能不全になるほどの光が「手加減」ってどういう事なの。いやまぁ、相手の動きや姿が分からない状態で、気配や音だけを頼りに戦うって意味なんだろうけど、なにそれこわい(2回目)。
えー。そんなの相手しなきゃいけないの? 殴って強敵認定されないと会話も出来ないのはとてもよく骨身に染みて分かってるんだけど、それって滅茶苦茶大変なのでは?
……滅茶苦茶大変だからクラウドがここまで参ってるのか。そして冥府神に主従契約結んでもらって冥府に常駐するという荒業で避難してたのか。そうか。
「となると、下手に光をどうにかしたら強くなる訳だ? うっわぁ面倒な」
『感想が相変わらずじゃの……』
『ってかそのぶんだと、ひかりをどーにかするさんだんはついてたってことじゃないのか』
『まぁまずあの目に見えて分かりやすい障害をどうにかしようとするデショウからね……』
マジか。光をどうにかしたら攻撃力がマシになると思って準備してたのに逆効果とか聞いて無いんだけど。しかしはた迷惑な手加減もあったもんだな。連携も何もない。……あぁ、そこまで含めて手加減なのか?
けどそういう事なら、防御をがっつり固めておけば勝手に光は引っ込めてくれそうだな。私が直接相対する前提だと。流石にあれだけ強い光を撒き散らしておいて、光による反射で周囲を把握とかはしてないだろうし。
……うん。とりあえずあれだ。足止めで設置するなら、見ないとどうしようもないパズル系だな。この際折角だし、謎解きの館風の階層でも作るか。もちろん地形破壊は一切禁止で。成功すれば無傷で抜けれるけど、失敗したら山ほど人形系モンスターが襲ってくる感じの。
「まぁ数をぶつけた所で勝てるとも思えないけど、うざいと思ってくれれば御の字って事で……」
『嫁が何かまた凶悪な階層を思いついたみたいだなァ』
『今回心底頼もしいというか、主が味方で良かったよ本当……』
まぁどういう意味かは問わないでおいてあげよう。私は配下の心労に配慮できるダンジョンマスターだから。
とりあえず、ナンプレとかの問題集を輸入しておいて。明らかに答えを丸写ししてる感じの答え方ならペナルティ発動、とかにしておけば、流石に自力で考えるだろうか。
流石に地形破壊禁止になっている閉所で大規模破壊には走らない、と、思いたい、ところだけど……不安だな。仕掛けも込みで全部破壊禁止にしておこう。その分の縛りは、過ごすだけなら安全な感じにすれば間に合う筈だし。
「時間制限を緩めにするなら隠し階層になるけど、出来れば普通の方に入れたいからな。時間制限はそのままでいいか。休みたければ素早く問題を解けばいいだけの話だし」
『テンちゃん、それってなんだかミステリーハウスみたいだねー?』
「イメージはそんな感じ。パズルの館でもいいけど」
『あら、普通に楽しそうですわね。難易度とペナルティを大人しくして客寄せにも出来そうですわ』
「客寄せする予定は無いんだよなぁ」
んー、どうせなら屋内にして、時間制限は水没にするか。逃げ場無しで激流が直撃ってなれば、普通は一掃できるだろう。……嵐を蒸発させたとかいう逸話があったから、問題の白陽さん自身は力技で抜けられるかもしれないけど。
それでも疲れない訳じゃないだろうし、沈み切るまでいくらでも水は流し込んでやるし、別にそれがメインじゃないから良しとする。仕掛けと言う名の問題を解かないと進めない階層の話なんだから。
けど、それで必ず足止めが出来るとも思えないのがなー。加減知らずのバトルジャンキーだけど、ソールだって頭が悪くない訳じゃないし。必要ならいくらでも複雑な事を考えられるんだよ、あの金色。って事は、その上位互換である白陽さんもそれぐらいはできるって事だ。
「とりあえずそれはそれで作るとして、後は何を用意しておくかな」
前から言ってるように、私の苦手分野は一点特化型の天災なんだよなー。なお、誤字ではない。そして一点特化型と言うか、個人という単位で飛びぬけた実力を持つ相手が、というのが正しい。
しかも自分の為に動いているならその欲の方向を見て誘導も出来るんだけど、目標がこれ以上なくがっつり定まってるからなー。脇目も振らずに攻略してくるだろう。正直、苦手分野のど真ん中なんだけど。厄介だな。
それでも諦める訳にはいかない。せめて話というか言葉で解決できるところまでもっていかないと、個人を相手にガチ戦争する事になる。それは面倒だし困るんだよな。
「……力を振りかざしてゴリ押す態度が嫌いって言うのもあるけど」
悪意が無かろうが無意識だろうが、相手を見もせずに問答無用で吹き飛ばして押し通る姿勢は好きではない。もちろんお前が言うなの合唱になるだろうが、少なくとも私は出来るだけ相手を見るようにしている。
もちろん、その人間性は別であるのかも知れない。知れないが……今の状態のままでは、少なくとも、無条件にクラウドを引き渡す気には到底なれない。それに、加減知らずっていう事に対する反発心もある。
なら、頑張ってどうにか足を止めて、苦戦させて、出来れば相手が思い知るまで敗北って奴を叩き込むしかないだろう。
「力ではどうにもならないっていうのを、本気の本気で思い知らないと、言葉を使う気にならない種族だって言うのは、よーく知ってるからな」
だったらまぁ……難易度がどれだけ高くてもやるしかないし、やるなら徹底的に、だ。
パズルもとい仕掛けを解かないとどうにもならない階層は作るとして……他にも、ひたすらに面倒で煩雑でイライラするけどゴリ押したらどうにもならなくような、そんな階層を作っておくとしよう。
『なぁそーる。おまえのせいでなんか、ひつよういじょうになんいどがあがってないか?』
『そこでオレのせいになンのかよォ?』
『……マスターが、太陽竜、という種族を、ここまで警戒する……その原因は、あなたでしょうに』
『まぁ間違いないのう。じゃから普段から加減を覚えろと言っておるじゃろう』
『そして、我々がこれほどに言っても改善される気配がない、というのが間違いなく難易度上昇の理由デショウね』
『ッぐ……』
『でも彼女に関しては大体合ってるっていう。初めてだな、主の警戒の高さで妥当だって思う相手』
『それであってるのか。そーるもそーるだが、くらうどもくらうどだな』
『……ある意味での、信頼、ってやつかしら……』
うん。だから、聞こえてるんだよな。
私はいつだって自分に出来る範囲のベストを尽くしてるだけなんだけど。そろそろ減俸するぞ。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:9
マスターレベル:8
挑戦者:2336636618人
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